ビタミンとは
ビタミンとは補酵素のことです。多くの体内の酵素はこの補酵素がなければ効果を発揮しません。ビタミンは体の機能を正常に保つために必須でありながら体内では合成されません。食物に含まれる必須な化合物として最初に認知されたものがアミン(ビタミンB1)だったので、科学者はそのような必須化合物が全てアミンであると誤認してしまったため、vitamine(vital 生命に必要な+amineアミン)と呼ばれるようになったのです。ビタミンの名前は、発見された順番もしくは生理作用を表す意味から名付けられました。
ビタミンには水に溶けやすい水溶性ビタミンと油に溶けやすい脂溶性ビタミンに分かれ、水溶性ビタミンには、ビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、B6、ビオチン、葉酸、B12)、ビタミンCが含まれます。脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kが含まれます。
ビタミンCとは
ビタミンCとは13種類あるビタミンの中の一つで水溶性です。
引用;厚生労働省.日本人の食事摂取基準2020年版
ビタミンの1日の推奨量は男女や妊産婦によって異なりますが、ビタミンCは約100mgと言われています。喫煙者は非喫煙者よりもビタミンCを1日につき35 mg多く摂取する必要があります。
ビタミンCの効果について
①抗酸化作用
②コラーゲン生成
③植物性の非ヘム鉄(Fe3+)の吸収促進
④メラニンの生成抑制
⑤生活習慣病予防(がん、高脂血症、痛風など)
①抗酸化作用
遺伝子が酸化されて別の物質に変ると遺伝情報が変わってがんになったり、動脈硬化、アルツハイマー病、糖尿病などに罹患してしまう可能性が示唆されています。多くの病気が酸素よりも活性の強い活性酸素種による酸化反応によって起こることが明らかにされつつあります。抗酸化作用のあるビタミンCにより生活習慣病をはじめ、あらゆる酸化ストレスから守ります。
アスコルビン酸は自分が酸化されてもグルタチオンやNADPHにより一部再生されます。
②コラーゲン生成
骨の20%、軟骨の50%はコラーゲンでできています。このコラーゲン生成の過程でビタミンCが重要になってきます。コラーゲンの前駆体であるプロコラーゲンに含まれるプロリンやリシンなどのアミノ酸は、ビタミンCを介した酵素反応により水酸基が付与されます。(プロリンの水酸化反応に関してアスコルビン酸以外の還元剤では替えがきかないことが証明されています。)この水酸基が付与されないとコラーゲンの三重らせん構造が構築できないため必要不可欠なのです。
引用;Nippon Nogei kagaku Kaishi Vol.64,No.12,pp.1850〜1858,1990
さらにこのコラーゲン合成過程においてFe2+はFe3+に酸化されます。ビタミンCはFe3+をFe2+に還元することで酵素活性の維持も行っています。
③植物性の非ヘム鉄(Fe3+)の吸収促進
食品に含まれる鉄は動物性のヘム鉄(Fe2+)と植物性の非ヘム鉄(Fe3+)の2種類に分類されます。ヘムとはFe2+とポルフィリンから成る錯体です。ヘム鉄は腸管からの吸収率は25%と比較的高いが、非ヘム鉄は植物性が多く腸管からの吸収率は5%ときわめて低いです。そこでビタミンCが腸管内でFe3+をFe2+に還元することで吸収を促進しています。3価鉄に比べて2価鉄の吸収がよいのは小腸からの鉄の吸収を行う輸送体(DMT1、HCP1)が十二指腸に存在しており、2価鉄を細胞内に輸送しているからです。
しかし食事に占める鉄の90%以上は非ヘム鉄と言われています。したがって鉄の吸収率を上げるためにはビタミンCが重要となってくるのです。一般に鉄欠乏性貧血の治療に経口の鉄剤が処方されますがビタミンCも一緒に処方されるのはそういう理由です。
④メラニン生成抑制
ビタミンCは色素を決定する因子であるメラニンの生成を抑制(ドーパキノンをドーパに還元)することでしみやくすみを予防したり、色素沈着を軽減したりしています。
酸化型メラニンを還元型メラニンに変換するなどの作用により、美白効果を発揮することが古くから知られてきました。しかし、ビタミンC は外用した場合その安定性に欠けることから、例えばリン酸L-アスコルビルマグネシウム(APM)<化粧品>などの安定な誘導体が開発されています。APMは、チロシナーゼの活性を阻害することによりメラニン生成を抑制することで肝斑、老人性色素斑、その他の色素異常症の色素沈着に対し改善効果を示すことが報告されています。なお、ビタミンC誘導体はヒトの皮膚内で解離され、アスコルビン酸となり効果を発揮するものと考えられています。
⑤生活習慣病予防
①抗酸化作用のところでも説明しましたが、遺伝子が酸化されて別の物質に変ると遺伝情報が変わってがんになったり、高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管障害などに罹患してしまう可能性が示唆されています。抗酸化作用のあるビタミンCにより生活習慣病を予防すると考えられています。
がんの予防(高濃度ビタミンC点滴)
がん治療としての研究
がん治療に高濃度ビタミンCが使用されたのは、1970年代のCameronらによるものでした 1)。その後がん治療の補助としてビタミンCを使用することで生存時間が延長されたと発表されました2)。一方で1970年代後半から1980年代初頭にかけて、Moertelらは、進行がん患者に高濃度ビタミンC療法(HAAT)を導入したが失敗しました3)。その後、ビタミンC投与ががん治療に貢献するのかについて論争されています。
しかし、Moertelらによる試験を含むほとんどの介入試験では、経口投与のみが用いられているのに対し、Cameronらは経口投与と静脈内投与の両方を用いていました。
1)The orthomolecular treatment of cancer II. Clinical trial of high-dose ascorbic acid supplements in advanced human cancer.
2)Supplemental ascorbate in the supportive treatment of cancer: Prolongation of survival times in terminal human cancer.
3)Failure of high-dose vitamin C (ascorbic acid) therapy to benefit patients with advanced cancer. A controlled trial.
つまり正しく比較はできていなかったと言えます。経口投与であればbioavailability の関係で有効血中濃度になるビタミンCは限られてしまうからです。
ビタミンCの1日最大許容用量の経口摂取(18,000mg/日)をしても、ビタミンCのピーク血漿濃度はわずか220μmol/Lであったのに対し、高濃度ビタミンCの点滴(50,000mg〜100,000mg)では約14,000μmol/Lの血漿濃度になるとの研究結果があります。血漿濃度は約70倍高くなっています。1000μmol/Lを超える濃度では、ビタミンCが一部の癌細胞に毒性を示していますが、正常な細胞には毒性を示していません。
引用;Intravenously administered vitamin C as cancer therapy: three cases
高濃度ビタミンCを点滴投与することでがんの予防ができる可能性が示唆されています。ただし高濃度以外のビタミンCの生理学的濃度(0.1 mmol/L)程度では、腫瘍や正常な細胞には影響を与えません。
アスコルビン酸の殺細胞効果
高濃度ビタミンCは過酸化水素を産生することで活性酸素を中和、酸化ストレスによるDNA損傷を減少させます。
薬理学的ビタミンCは、プロドラッグとして作用することにより、ナトリウム依存性ビタミンCトランスポーター2(SVCT-2)を介して細胞内L-アスコルビン酸の関与を高め、癌細胞を損傷することがわかっています。
引用;Vitamin C: a concentration-function approach yields pharmacology and therapeutic discoveries
しかし保健当局(FDA)はがん患者にとって高濃度ビタミンC点滴(HAAT)はあくまで補助的がん治療であり、治療的要素はないとしています。ただ in vitroおよび動物実験では、ビタミンCのがん細胞に対する薬理学的細胞毒性効果を証明されているため、少なくとも癌などに対して免疫力を高める予防的投与は期待できます。
高脂血症の予防
ビタミンCが欠乏していると血中のコレステロール濃度が上昇し、肝臓でコレステロールから胆汁酸への合成量が低下します。それによって、胆汁酸↓ → 肝臓内chol ↑ → 血中chol ↑となります。コレステロールから胆汁酸を合成するために必要なコレステロール7α水酸化酵素が、ビタミンC欠乏により活性が低下することが原因と考えられています。
高脂質血症が進行すると血管壁が粥状硬化していき動脈硬化となります。
動脈硬化、心疾患、脳血管障害の予防については否定的
2006年のランダム化比較試験のメタアナリシスを実施した研究者らは、抗酸化サプリメント(ビタミンC、ビタミンE、βカロテンまたはセレニウム)はアテローム動脈硬化症の進行に影響を及ぼさないという結論を出しています。同様に、ビタミンCが心血管疾患の予防および治療に及ぼす効果のシステマティックレビューでは、ビタミンCによって心血管疾患の予防に好ましい効果が得られないことが判明しています。
Linxian試験のデータは有益性の可能性を示唆しているものの、全体としてほとんどの介入試験の結果は、ビタミンCサプリメントが心血管疾患を予防したり、その罹患率や死亡率を減少させたりするという確実なエビデンスを示してはいません。
しかし、それら実験に参加した被験者のビタミンC濃度が研究への登録時にすでに飽和状態に近かった場合、ビタミンCを補充しても測定結果に違いはほとんどないか、または全くみられないと考えられるため、一概には全く効果がないとも言い切れないです。少なくとも脂質レベルの低げられる可能性があること、副作用がほとんどない水溶性ビタミンであるため定期的な摂取は推奨したいです。
痛風/高尿酸血症の予防
2011年に報告されたメタアナリシス研究で、ビタミンCを1日あたり200~2,000mg(中央値500mg)摂取することで血中の尿酸値が減少するという解析結果が得られています。つまりビタミンCの摂取量が多いと尿酸値は低くなり、その後の痛風発症リスクは低くなる可能性があることを示唆しています。
ビタミンCの代謝産物であるシュウ酸の特性
ただし尿酸値は下がるが、元々シュウ酸ができやすい方はビタミンCの代謝産物であるシュウ酸による尿路結石には注意しなければなりません。内服でビタミンCを摂取している分には通常はなり得ませんが、腎機能が悪い方や水分をあまり摂らない方はその限りではありません。対策としては、シュウ酸はカルシウムやトリグリセリド(脂肪酸)と結合しやすいため、ビタミンCとカルシウムを摂取したり、余分な脂肪を作らせないように脂質を抑えた食事にするなどです。これで痛風と尿路結石が予防できると思います。
ビタミンCはなぜ必要なのか?
ビタミンCはコラーゲン合成に必須で皮膚、血管、血液、筋肉、骨を保つのに欠かせないビタミンだからです。それにも関わらず霊長類(サルやヒト)の体内では合成することができないです。ビタミンC合成経路の最後の反応を行う酵素であるグロノラクトン酸化酵素が遺伝子変異によって欠損しているからです。体内で合成できないため欠乏状態が持続すると様々な体調不良が出てきます。重度の場合は壊血病となります。(※1ヶ月以上ビタミンCを全く摂取しない場合に発症)
#壊血病
初期に皮膚の乾燥や脱力感、うつ状態がよく見られます。その後、太ももなどの大腿部に大きなあざが現れるようになり、毛穴の周囲から点状の出血が起こります。症状がさらに進むと、歯ぐき、消化管,粘膜からも出血が見られ、やがてからだの至る所から出血して死に至ります。壊血病は、食物が豊富な先進国でも毎年報告されています。
引用;ビタミンC研究委員会
なぜビタミンCは体内で合成できなくなったのか?
Challemらは、下記見解を示している。
①霊長類がレトロウイルスに感染したことでL-グロノラクトンオキシダーゼ遺伝子にAlu配列が挿入された。それに伴いアスコルビン酸濃度が低下したが、活性酸素を消去できずウイルスは増殖できなくなったことを有利な働きと判断した。
②グロノラクトン酵素自体も過酸化水素をつくるので、食物中からアスコルビン酸を摂取できていれば過酸化水素を消去できる。一方で気候の影響により飢餓状態にさらされると生体内アスコルビン酸濃度は低下し、酸化ストレスがかかり血圧が上昇することで生命維持していた可能性がある。(アスコルビン酸濃度と血圧は反比例の関係)
つまり長い歴史の中でヒトは外から摂取する方が体内で合成するより有利と判断したためグロノラクトン酸化酵素は淘汰されたのでしょう。
ビタミンCはどれくらい摂取すればいいのか?
ビタミンCは経口摂取されると小腸から吸収され各組織に運ばれ貯留されます(最も濃度が高いのは副腎皮質と下垂体、低いのは筋肉と脂肪)。ただし腸管膜の透過に時間がかかるので、一度に大量投与すると吸収が十分でないうちに吸収部位を過ぎてしまうため尿中へ排泄されてしまいます。投与量に対する吸収率は文献にもよりますが、1,500mgで50%、12,000mgで16%まで吸収率が低下すると報告があります。
尿中排泄率は投与後3〜6時間で最高となるので、最高血中濃度が投与後3時間であることを表しています。さらに最高血中濃度になるまでの時間は投与量に比例しません。24時間のビタミンC排泄量は1000mgで269 mg(27%の排泄率)、2000mgで362mg(18%の排泄率)と報告されています。すなわちビタミンCの投与量に応じて、ビタミンCの排泄量は多くなるが、 排泄率は小さくなります。Bioavailability の観点からすると、1回の摂取量250〜500mgが無駄のない摂取となります。1日に1000mg〜2000mgを摂取するときは、 3〜4回に分けて摂取するのが望ましいです。
引用;Vitamin C pharmacokinetics: implications for oral and intravenous use
ビタミンCの摂り過ぎは大丈夫?
ビタミンCの毒性は低く、高用量を摂取しても重篤な副作用は生じないと考えられています。
引用;Dietary Reference Intakes for Vitamin C, Vitamin E,Selenium, and Carotenoids
消化器症状
最も多く訴えられる症状は、消化管内における未吸収のビタミンCの浸透圧に起因する下痢、悪心、腹痛などです。
尿路結石のリスク(ほぼない考えて良い)
ビタミンCは分解されると尿中にはデヒドロアスコルビン酸、2,3-ジケトグロン酸、シュウ酸に変化します。排泄量が多く余った場合はそのままの形でも尿中に排泄されます。尿中へのシュウ酸排泄率が300〜400mg/日まで排泄されると高シュウ酸尿症となり尿路結石などのリスクとなりえます。研究報告ではアスコルビン酸(ビタミンC)の投与量が9,000mgに増加してもシュウ酸の尿中排泄率は100mg程度と報告されているので、1回3000mg1日3回サプリメントで摂取してもビタミンCがリスクとなることはないと考えます。それより私たちの普段の生活における食事(野菜)や飲料(緑茶、コーヒー、ココア等)に含まれるシュウ酸(水溶性シュウ酸塩)そのものが吸収されて血中濃度の上昇に影響する方がかなり大きいです(ただし元々尿路結石の既往がある方や腎機能障害がある方は高容量の摂取はおすすめしません)。
ビタミンCの許容上限摂取量
米国医学研究会(Institute of Medicine:IOM)の食品栄養委員会(Food and Nutrition Board:FNB)は食物とサプリメントの両方からの摂取に適用されるビタミンCの許容上限摂取量を設定しています(ビタミンCが治療として必要な方は除く)。それによると、男性・女性・妊婦・授乳婦は2,000mg/日としており、長期間でのそれ以上の摂取は健康への悪影響のリスクを増大させる可能性があるとしています。
Bioavailability(生物学的利用率)、許容上限量のことを総合的に判断すると、サプリメントとしては1回の摂取量250〜500mgで3〜4回に分けて1日あたり750〜2000mg摂取するのが美容・健康目的にはいいのではないかと思います。
化粧品としての役割
皮膚において抗酸化作用、メラニンの産生抑制、コラーゲンやヒアルロン酸の合成などが期待されます。しかしビタミンCを化粧品とした場合、水溶液では熱・光に不安定であることから、多くの場合、安定化したビタミンC誘導体の形で用いられています。
ビタミンCのサプリメントの原料は?
ビタミンCは野菜やフルーツに含まれていますが、それらは天然ビタミンCです。一方でサプリメントや医薬品などに使用されるビタミンCは工業的に作られた合成ビタミンCです。その多くはトウモロコシに含まれるd-ソルビトールという成分で微生物による発酵で作られています。化学構造は全く同じなため、天然ビタミンCと同様安全で効果は同等です。
ビタミンEと同時に摂取した方がいいのか?
ビタミンEは脂溶性ビタミンであり、活性酸素種から細胞膜の脂質の酸化を保護しています。ビタミンEが脂質の酸化を防ぎ酸化型となってもビタミンCが還元剤としてビタミンEを再生しています。この還元作用はビタミンEからビタミンCへも行われていると報告があります。さらにCとEを組み合わせると、血管内皮増殖因子(VEGF)およびアテローム性動脈硬化プラーク形成に関与するLDL受容体の誘導を防ぎます。つまり、高脂血症・動脈硬化を予防できる可能性があります。ビタミンEは天然と合成では化学構造が異なり、合成されたものは体内での利用率が悪いとされています。以上のことからサプリメントとしてCとEを同時に摂取することは合理的と言えます。
引用;ビタミンCとビタミンEの相互作用は遺伝的にビタミンCを合成できないラットの組織で観察できる
引用;New developments and novel therapeutic perspectives for vitamin C
まとめ
ビタミンCは水溶性ビタミンであり扱いが難しく、必要十分量のビタミンCを摂取することは現実は難しいです。さらに美容目的であれば食事以外から補充して上げる必要があります。体内での利用率や長期的服用を前提とするなら1回の摂取量250〜500mgで3〜4回に分けて1日あたり750〜2000mgを摂取するといいと思います。(その際は相乗効果を期待してビタミンEも150mg程度併用しても良いでしょう。)この範囲内であれば副作用はまず出ないし、生活習慣病の予防もできるのではないでしょうか。カルシウムも一緒に摂ったり、脂肪が多い食事を減らしたりすればシュウ酸カルシウム結石を予防できると思います。点滴で高濃度のビタミンCを入れる場合はビタミンCに期待される効果に加えて、がん細胞やウイルスに対する免疫力向上も期待できると考えてよいでしょう。