ビタミンとは
ビタミンとは補酵素のことです。多くの体内の酵素はこの補酵素がなければ効果を発揮しません。ビタミンは体の機能を正常に保つために必須でありながら体内では合成されません。食物に含まれる必須な化合物として最初に認知されたものがアミン(ビタミンB1)だったので、科学者はそのような必須化合物が全てアミンであると誤認してしまったため、vitamine(vital 生命に必要な+amineアミン)と呼ばれるようになったのです。ビタミンの名前は、発見された順番もしくは生理作用を表す意味から名付けられました。
ビタミンには水に溶けやすい水溶性ビタミンと油に溶けやすい脂溶性ビタミンに分かれ、水溶性ビタミンには、ビタミンB群(B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B6(ピリドキシン)、B12(シアノコバラミン))、B3(ニコチン酸=ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B7(ビタミンH=ビオチン)、B9(葉酸)、ビタミンCが含まれます。脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kが含まれます。
ビフィズス菌などの腸内細菌は、ビタミンB、ビタミンKを合成します。一方で腸内細菌の中には、ビタミンB1やビタミンCを分解してしまう菌も存在します。エネルギーの代謝経路においてビタミンB全てが十分量存在しないと、代謝は円滑にいかないのです。
ビタミンB1について
B1は最初に発見されたビタミン
1886年に東インド諸島で脚気の研究をしていた研究者達が偶然、病気の原因を突き止めたことで明らかになったビタミンです。当初、脚気は微生物によって引き起こされると考えられていたのですが、その微生物を発見できず、研究用に飼っていたニワトリに脚気の兆候が現れていたことから見つかりました。彼らは病院の患者用の精白米をニワトリに与えると脚気の兆候が現れることを見つけ、玄米を与えるとその兆候が現れなくなったのです。その後もみの殻にビタミンB1が含まれており、精米によってそれが取り除かれてしまうことが判明したのです。
ビタミンB1の効果
糖質代謝
糖質代謝に関わるため欠乏すると易疲労性、脚気となります。アルコール依存症、偏食傾向、大量に汗をかくスポーツをされると水溶性ビタミンであり欠乏してしまいます。
アルコールの分解
ビタミンB1がアセトアルデヒドを取り除きアルコールを飲みすぎた後に起こる二日酔いを治すと言われています。二日酔いはエタノールが酸化されてできるアセトアルデヒドが原因ですが、ビタミンB1によりアセチルCoAへ変換されれば改善されるからです。
ビタミンB2(リボフラビン)
リボフラビンは体内でFADとして酸化還元反応に関与しています。
酸化還元反応で用いられるビタミン①
フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)はNAD+と同様に基質を酸化(異化反応:細胞にエネルギーATPを供給するために起こる生分解反応)する補酵素です。FADが基質を酸化すると自身はFADH2に還元されます。
FADはカルボニル化合物以外を合成する時に使用する補酵素
ビタミンB2の効果
過酸化脂質の抑制
皮膚での炭水化物とタンパク質の代謝に関わっているので、欠乏すると口角炎、口内炎、舌炎などを来します。また糖質の多い食事を摂るとB2が消費され皮脂の分泌量が多くなります。リボフラビンから誘導されるFADはグルタチオンペルオキシダーゼ(グルタチオン還元酵素)の補酵素として働くので過酸化脂質を除去します。
ビタミンB3(ナイアシン=ニコチン酸)
ナイアシン(ビタミンB3)は体内で合成できないので食事から摂取しなければならない補酵素です。単調な食事で欠乏すると皮膚炎・下痢・認知症になりえます。
酸化還元反応で用いられるビタミン②
酸化反応(異化反応:細胞にエネルギーATPを供給するために起こる生分解反応)を触媒する酵素の補酵素として用いられる最も一般的なものは酸化剤であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)です。NAD+が基質を酸化すると自身はNADHとなります。
還元反応(同化反応:生体内で必要とされるために起こる合成反応)を触媒する酵素の補酵素として用いられる最も一般的なものは還元剤であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)です。NADPHが基質を還元すると自身はNADP+となります。
NAD+はカルボニル化合物を合成する時に使用する補酵素
ビタミンB5(パントテン酸)
脂質・糖質・タンパク質の代謝に関与
補酵素A(CoA)とも呼ばれ、エネルギー代謝に関わっているため欠乏すると、皮膚や毛髪の成長が障害されます
ビタミンB6(ピリドキシン)
補酵素のピリドキサールリン酸(PLP)はピリドキシン(ビタミンB6)から誘導されます。ピリドキサール、ピリドキサミンもB6活性をもちます。タンパク質の代謝に関わるため欠乏するとペラグラ様皮膚炎、貧血、痙攣などを呈します。アルコール依存者は特に欠乏しやすいです。
ビタミンB7(ビタミンH=ビオチン)
ビオチンは腸管にいる細菌によって生産されるので通常のビタミンとは異なり、食事に含まれる必要性はないです。したがって欠乏症もほとんどありません。しかし生卵を多く摂取する方はビオチン欠乏症になることがあります。これは卵白にはビオチンと強く結合するタンパク質(アビジン)が含まれており、補酵素としての働きを阻害するからです。加熱すればアビジンは変性します。
ビタミンB9(葉酸)
葉酸は細胞増殖に必須のビタミンです。人は葉酸を合成できませんが微生物は合成することができます。したがって葉酸がなければ細菌は死に、人には悪影響を及ばさないという事実から1934年に最初の有効な抗菌薬としてサルファ剤であるスルホンアミドが開発されました。葉酸が欠乏すると巨赤芽球性貧血、舌炎になる可能性があります。
ビタミンB12(シアノコバラミン)
シアノコバラミンは、サプリメントして摂取する場合は葉酸とともに赤血球の生成、神経細胞の脂質膜の合成や動脈硬化の危険因子と考えられているホモシステインの代謝にも関与していることが知られています。
胃の粘膜から分泌される内因子と結合し回腸から吸収されます。体内でビタミンB12の合成はできないことから、食事、とりわけ肉類から摂取しなければなりません。B12はごく少量あれば十分なため、欠乏症は稀ですが、ベジタリアンなど偏食傾向、吸収不良の方は欠乏し悪性貧血となりえます。
分子量1355.38(>1000)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透しません。コバルトCoを含んでいるため赤色を呈します。ビタミンB12は、赤い色をした眼精疲労の点眼薬や化粧品で使用されることも多いです。化粧品に配合される場合は睡眠覚醒リズム障害の改善、着色を期待して配合されます。
引用;中澤恒幸.ビタミン 64(5/6): 332-333, 1990.
ビタミンD(カルシフェロール)
コレステロールの生成過程において最終段階で生成される、7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)が紫外線にあたることでと、コレカルシフェロール(ビタミンD3)となります。このビタミンD3は、生理活性がないため肝臓でC-25位が水酸化されカルシジオールとなり、腎臓の近位尿細管細胞で、C-1α位が水酸化され、生理活性を有するカルシトリオール、つまり、1,25-ジヒドロキシカルシフェロール、1,25-(OH)2ビタミンDとなります。さらに1,25-(OH)2ビタミンDは、小腸上皮細胞に作用して、カルシウムやリンの吸収を促進させ、骨組織に作用して、カルシウムの動員を促進させ、腎臓に作用して、カルシウムの再吸収を促進させる働きがあります。
ビタミンK(フィロキノン)
ビタミンKは3種類あります。K1;フィロキノン(植物由来)、K2;メナキシン(細菌由来)、K3;メナジオン(人工合成由来)。ビタミンKは腸内細菌によって合成され流ため欠乏症には通常なりません。血液凝固を正常に保つために必要な化合物です。ビタミンKは植物の葉にも存在します。ビタミンKの吸収には胆汁が関与しているため肝不全の方は欠乏症となり、出血傾向になります。ビタミンKは緑黄色野菜や納豆に豊富に含まれているため、ワルファリン(ビタミンK拮抗薬)など血液をサラサラにする薬を内服している患者さんは影響が出るので注意が必要です。
ビタミンE(トコフェロール)
α型、β型、γ型、δ型の4種類がありますが、α-トコフェノールが、最も活性が高いと言われています。オリーブオイルはα型、ゴマ油はγ型です。ビタミンEは菜種油やアーモンドに多く含まれています。ビタミンEは脂溶性で抗酸化作用があるため、細胞膜での過酸化脂質の生成を抑制します。脂溶性ビタミンですが、他の脂溶性ビタミンと異なり、摂取し過ぎても過剰症が現れにくいです。グルタミン酸のカルボキシ化をつかさどる酵素を阻害します。抗凝固薬作用があることが最近わかってきました。