1985年以降、皮膚のアンチエイジング治療として15種類以上の方法が考案されてきたと言われています。ケミカルピーリング、non-ablative レーザー、IPLにより真皮の再構築ができると考えられてきました。その後炭酸ガスレーザーやEr:YAGレーザーを用いたskin resurfacing治療や皮膚を点状に焼却するfractional laser療法、RFによる高周波治療、プラズマ、LED治療、HIFUなど多数の治療法が考案されています。ただし、炭酸ガスレーザーによるskin resurfacing治療は真皮へのダメージが大きく、瘢痕形成や白斑、色素沈着などの副作用が多数報告されました。皮膚を層状に加熱するレーザーやIPLでは、エネルギーが真皮内で急激に低下するにも関わらず、スキンタイプが高いダークスキンに対しては出力が上げられないため十分な熱量を照射できません。RF治療は治療回数が増えるほど皮下脂肪が過度に減るため、いくつか問題があります。
enLIGHTen®︎に代表されるNd:YAGレーザーによる治療ではスキンタイプの制限なく、高いピークパワーで真皮深層への加療が可能になりました。
PICO GenesisTM/PICO GenesisTM FX
ピークパワーの高い1064nm、750psのピコ秒レーザーを皮膚全体に均等に照射する治療は、日本においてはピコトーニング®︎(PICO toning®︎)として商標登録されています。米国では「PICO GenesisTM」と呼ばれています。また、プラズマを発生させるMLAレンズを装着し、PICO GenesisTMと同様に肌全体に照射するフラクショナル治療については「PICO GenesisTMFX」と呼ばれています。PICO GenesisTMFXはプラズマを発生させることで表皮や真皮に多数の空洞を形成させ、PICO toning®︎より真皮の再構築が期待されます。真皮深層まで刺激を加えることで、真皮成分(線維芽細胞や酸化ヘモグロビン)を介して血管内皮細胞を刺激し、コラーゲン繊維やエラスチン繊維、毛細血管などを再構築していきます。これにより肌のキメが整い、肌のトーンアップ、毛穴の引き締めも期待できます。
ピコトーニング
肌の張り・肌理の改善、トーンアップ
表在性色素斑の治療の仕上げとして行うのも良い適応です(532nmのレーザーは表層のシミを取る「切れ」は良いが再発しやすいのは、深層部分が残存しているからです。その残存部を波長が長い1064nmでピコトーニングしていきます)。それ以外にも肌質を改善させたい、毛穴を引き締めたいという症例にも適応ですが、フラクショナルレーザーと比較するとその効果は十分とは言えません。
治療期間を1ヶ月毎とし最低でも6回以上は推奨
※しみの原因であるメラノソームは独立した大きい粒子ほど真皮からのメラニン生成を誘導するサイトカインの抑制効果は小さく、美白効果は弱くなる。この事実より濃くて大きいしみほど初回は高フルエンスのスポット照射で薄くしてから、仕上げでトーニングをする方が理にかなっています。
肝斑に対してのレーザー
肝斑にレーザーを照射すると、高フルエンスで照射した場合には、メラニンに反応し表皮熱傷となります。普通のしみであれば良いのですが、肝斑においては、上皮化の過程で炎症がさらにメラノサイトの活性化を誘導し悪化します。この事実から肝斑における高フルエンスでのレーザー照射は禁忌となっています。
しかしメラニン選択性が高くない1064nmのYAGレーザーを用い、痂皮形成しない程度の低フルエンスの照射を1〜4週間ごとに行うことで、肝斑が治るとされ、機器メーカーが積極的に過大広告と共に広めてしまったため、本邦では流行しています。ただし、痂皮ができない、つまりメラノサイトやメラノソーム含有ケラチノサイトが壊死しない程度のレーザー照射により少量のメラノソームが破壊されるため、実際に治療直後から色調改善効果が得られています。しかし肝斑の根本治療をしているわけではないため、表皮のターンオーバーサイクルの4週間後には必ず元に戻ることになります。そこで4週間より短い間隔で治療を繰り返し、色の薄い状態を維持しようとする商業主義的手法が流行しています。確かに肝斑のシミは薄くすることがゴールであり、間違ってはいませんが、照射を繰り返すことで肝斑の場合は白斑形成などリスクもあるため、保存治療なしでのレーザートーニングを繰り返す行為はあり得ません。
さらにこのレーザートーニングは老人性色素斑を合併している場合に、老人性色素斑を肝斑と誤診して治療すると長期的には改善効果があるため、繰り返し治療することで効果を発揮すると言われ続けていた背景もあります。
肝斑に対してのピコトーニング
皮膚光老化が進んだ方やスキンタイプがⅤ以上と高い方以外であれば、内服・外用・イオン導入・ピーリングを行なっても改善しなかった場合に適応としています。短期的には残存するメラニン量を減らすこと、中長期的には真皮のrejuvenationにより異常サイトカインSCF(メラノサイトを活性化させているサイトカイン)を抑制し新たな肝斑の出現を予防する目的があります。
0.6〜0.8J/cm2で開始し段階的に出力を上げていく。ただし肝斑はメラニン生成に関する機能的異常を呈しており、ほぼ永続的はメラニン生成をしているため、ある程度トーニングでメラニンを除去したところで、メラニン生成量とメラニンの破壊量が均衡に達し変化が乏しくなります。ある程度肝斑のシミが薄くなってくると、反応させるためにフルエンスを上げることになりますが、薄いということはメラニン量が少ないため、レーザーが深部へ到達するリスクが高くなります。基底層のメラノサイトへ刺激してしまうと脱色素斑が出現しやすくなってしまいます。ただ肝斑の原因と言われている真皮の老化に伴う異常なサイトカインSCFなどを、rejuvenation により抑えることができため、トレードオフの関係にあります。ですから肝斑のシミが薄くなってきた時こそ慎重にフルエンスを上げていかなければなりません。目安としてはピコトーニング治療単体は10回以内にとどめることが望ましいと言われています。
ピコフラクショナル
非剥皮的フラクショナルレーザー(凝固型)
肌の張り・肌理の改善、トーンアップ、頸部の鳥肌様皮膚やちりめんシワ
フラクショナル治療1回分はトーニング治療6回分よりも組織学的に優位な改善があったと報告されています。日光老化のみならず、生理的な老化に対しても組織学的な改善が見られていると報告されています。
引用;Histological investigation of picosecond laser-toning and fractional laser therapy
コラーゲン繊維の半減期は15年であるため、定期的に照射を繰り返すことが重要です。
引用;Effect of collagen turnover on the accumulation of advanced glycation end products
初期に開発されたものはNAFL(Non-ablative fractional laser)と呼ばれ、照射後に熱変性作用によって真皮内の比較的浅い部位に円柱状の凝固物を多数形成します。
ピコ秒レーザーはこちらのNAFLに分類され組織の凝固のみで上皮化が早く、疼痛や色素沈着などの合併症は少ないです。その分AFL(CO2フラクショナルレーザーなど)に比較して瘢痕改善率は低いので浅いタイプのニキビ跡やrejuvenationが目的となります。
引用;Acne scarring: a classification system and review of treatment options
引用;エビデンスに基づく美容皮膚科医療.2019;vol1.106:247
引用;Beauty #26.2021;Vol.4.No.1;67:85
フラクショナルレーザーにより真皮コラーゲン線維やエラスチン線維の新生、真皮乳頭層におけるエラスチン繊維のネットワークの回復などが報告されています(これは表皮と真皮は常にサイトカインネットワークにより相補助的関係が構築されていて、皮膚の損傷時に血小板や単球、線維芽細胞がさまざまなサイトカインを放出している)。
角層水分量、皮膚粘弾性の改善が認められます。
真皮内にコラーゲンの再構築が形成されるまでは数ヶ月期間が必要です。
PICO GenesisTM の原理
レーザートーニング後、真皮からのα-MSH、チロシナーゼ、TRP1/2、神経成長因子などメラニン産生に関わるサイトカインの減少に伴うmelanogenesisの低下が起こります。
光音響効果が優位となるピコ秒レーザー(例えば1064nm,750ps)によるトーニング治療の効果を組織学的に検討したところ、表皮から1mmの深さまでコラーゲンやエラスチンの増加、真皮浅層の毛細血管の増生が見られるなど真皮のリモデリングが観察されました。UVAが表皮表面1mmまで深達することを考慮すれば十分なrejuvenation効果と言えます。
PICO GenesisTM FXの原理
PICO GenesisTMFXはプラズマを発生させることで表皮や真皮に多数の空洞を形成させ、PICO toning®︎より真皮の再構築ができるとされています。
照射するレーザー光強度が高くなると、optical breakdown(光学破壊)が誘起され、プラズマが発生します。プラズマの発生そのものが蒸散過程であると言ってよく、この過程はphotodisruptionなどと呼ばれています。発生した高温高圧のプラズマは、最初、極超音速(hypersonic)で膨張し、その膨張が減速するときに衝撃波が発生します。そしてプラズマのさらなる膨張はキャビテーションバブルの発生を招き、キャビテーションバブルは膨張あるいは伸縮し、条件により崩壊を起こして二次的な衝撃波の発生を来します。photodisruptionにおいては、一般的にはプラズマの生成そのものが主要な組織除去過程であり、衝撃波やキャビテーションバブルは組織の機械的損傷の原因になると考えられています。
簡単に言うと、物体にある一定の光強度を与えるとプラズマが発生します。皮膚においては非常に高いピークパワーのピコ秒レーザーが当たると、皮膚のメラニン顆粒内で空洞化、いわゆるLIOB(Laser Induced Optical Breakdown)が起こります。
まとめ
ピコトーニングもピコフラクショナルもコラーゲンは照射7日後から新生されると言われますが、実際に確認するには3ヶ月以上必要と言われています。
コラーゲンの新生により肌の張り・肌理の改善、トーンアップが期待されますが、フラクショナルレーザーでは頸部の鳥肌様皮膚やちりめんシワなど皮膚の生理学的老化に伴う皮膚の改善も期待できます。これはピコトーニングは皮膚表面から層状にレーザー光で刺激すると真皮内で急速にエネルギーが減衰するのに対して、フラクショナルレーザーでは表皮から真皮深層にかけてプラズマによる球状の空洞が複数形成され、その空洞内に赤血球が流入することで創傷治癒機転が、トーニングよりも起こりやすいからです。コラーゲン繊維の半減期は15年であるため、定期的に照射を繰り返すことで皮膚の水分量や弾力性を維持することができるでしょう。
初回の美肌治療では色素性病変の治療、ピコトーニング、低出力のピコフラクショナルを同時に行うことが可能です。
ダウンタイムとアフターフォロー
軽度の痛みは1時間ほど持続するが経過観察で問題ありません。特に軟膏などの外用も必要ありません。皮内出血はフルエンスを上げるほど強く出ますが、長くても10日ほどで消失します。