ニキビ痕
炎症後色素沈着
PIH(Post Inflammatory Hyperpigmentation)は遷延した炎症の結果生じます。表皮、毛包漏斗部がメラニン過剰沈着している状態です。PIHはニキビの重症度と基底細胞の傷害の程度と相関すると考えらています。メカニズムは完全には解明されていませんが表皮の炎症により角化細胞由来のプロスタグランディン(PG)、ロイコトリエン(LT)、エンドセリン(ET)などのサイトカインが放出されて、メラノサイトの過剰増殖、メラニン過剰産生が行われていると考えられています。
PG(プロスタグランディン)はシクロオキシゲナーゼ(COX)によりアラキドン酸から合成され、細胞増殖、分化、アポトーシスを調節する脂質ホルモン。皮膚においてはPGの中でもPGE2、PGF2αが紫外線照射後にケラチノサイトより産生され、慢性的に皮膚の炎症部位に存在していると報告されています。
引用;Human skin pigmentation: melanocytes modulate skin color in response to stress
引用;Abul K,et al.分子細胞免疫学.2018;vol.9:466:578.
瘢痕
痤瘡による炎症が軽快した後に、その後遺症として生じるものです。リモデリング(再構築)において膠原線維が過剰であれば肥厚性瘢痕、不十分であれば萎縮性瘢痕となります。
リモデリングについて
ニキビの急性炎症により毛包が破壊されて、間隙が形成されると創傷治癒機転により線維芽細胞と筋線維芽細胞が膠原線維を産生し肉芽組織が形成されます。この時炎症細胞浸潤や毛細血管新生も生じます。
通常はその肉芽組織が間隙を埋めます。そして周囲の健常皮膚から表皮細胞が遊走・分裂し表皮を形成し、平坦な瘢痕組織となります。上皮化が完了すると炎症が収束し、線維が分解され血管も減少し、細胞数も少なくなります。これがリモデリングです。
あらかじめ十分な量の膠原繊維があれば陥凹せずに治癒します。しかし十分な線維が形成されずに炎症が収束した場合、線維の量が少なくなり陥凹した萎縮性瘢痕が生じます。逆に過剰に膠原線維が産生されれば肥厚性瘢痕となります。
萎縮性瘢痕
表皮が陥凹した状態です。萎縮性瘢痕の分類ではJacob分類が頻用されます。
icepick scar:V型で直径2mm以下の境界明瞭で先細りの形、真皮深層や皮下組織に及ぶ深さの点状瘢痕
rolling scar:U字型で直径4mm以上、皮下の索状膠原線維により牽引され広くなだらかな陥凹を呈する、表皮レベルの深さ
box scar:M字型で直径4mm以下で類円形に垂直に陥没した瘢痕、浅ければ0.5mm以下で深ければ0.5mm以上
萎縮性瘢痕の原因
原因はリモデリン期において十分な膠原線維が産生されず、局所的に線維化、顔面においては表在性筋膜層(SMAS)との癒着により陥凹が形成されます。
引用;Acne scarring: a classification system and review of treatment options
破壊された真皮組織では、線維化による組織の収縮と欠損組織の充填が代償作用として起こり、萎縮性瘢痕が形成されます。創傷治癒機転としての線維化で、顔面の表在性筋膜層との癒着により陥凹が維持されます。
引用;Acne scarring: a classification system and review of treatment options
肥厚性瘢痕とケロイド
皮膚は、表皮、真皮乳頭層、真皮網状層の3層構造になっています。ケロイド・肥厚性瘢痕は皮膚の深い部分である真皮網状層が傷ついたり炎症を起こしたりすると発症します。皮膚を全層で切開する手術、ピアス、強い炎症を起こすBCGのワクチン接種やにきび(痤瘡)なでも発症することがあります。逆に言えば、浅い擦り傷からはケロイド・肥厚性瘢痕はまずできません。しかし傷が浅くても、感染を起こしたりして炎症が深くに及ぶとケロイド・肥厚性瘢痕を発症する可能性があります。
リスク要因:①炎症が深い②創傷治癒にかかった時間が長い③炎症の部位が張力がかかりやすい部位であること④女性ホルモン(エストロゲン)
⇨前胸部にできたニキビは直ちに治療してください
エストロゲンには血管拡張作用があり、創傷部位での炎症が増強します。妊娠で肥厚性瘢痕・ケロイドが悪化し出産後に軽快すると報告があります。また帝王切開の創から肥厚性瘢痕・ケロイドができやすい、高血圧では重症化リスクが高い、Rubinstein-Taybi症候群などの遺伝性疾患でもケロイドができやすいと報告があります。
引用;Sex Differences in Keloidogenesis: An Analysis of 1659 Keloid Patients in Japan
引用;Hypertension: a systemic key to understanding local keloid severity
肥厚性瘢痕
創の範囲を超えない(ここがケロイドと違う)軽度に隆起した病変、膠原繊維が表皮直下まで垂直に増殖している(ここがケロイドと違う点)状態です。下顎〜頸部、前胸部は張力のかかる場所なので形成されやすいです。
ケロイド
創の範囲を超えて隆起した病変で横から強くつまむと疼痛を訴える(側圧痛)、時に掻痒感を訴えます。膠原繊維が真皮中深層に波状・渦巻状に増殖している状態です。下顎〜頸部、前胸部は張力のかかる場所なので形成されやすいです。「あたかも餅を引き伸ばしたかの様な像です」
引用;Keloid and Hypertrophic Scars Are the Result of Chronic Inflammation in the Reticular Dermis
肥厚性瘢痕・ケロイドは病態的には同等なため区別する必要性はなく、治療も同じです。