加齢に伴うシワには、静止時のシワと動作時のシワの2種類があります。抗シワ機能性製剤は静止時のシワにのみ有効です。ただし、神経伝達物質ペプチドのように神経筋接合部に作用する成分は動作時のシワに有効です。静止時のシワは角質細胞の蓄積で目立つようになり、これらに対して保湿剤では効果を得るのが難しく抗シワ機能性製剤が有効になってきます。
レチノール
本邦では資生堂によりシワ改善有効成分として医薬部外品に厚生労働省から承認を受けています。レチノールにはいくつか種類があり、薬理効果が高いものからレチノール、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールがあります。医薬部外品としてのレチノール含有化粧品の効能は美白ではなく「シワを改善する」という効能の許可を受けたものです。
ターンオーバー亢進作用
レチノールがケラチノサイトにおいてヘパリン結合性EGF様成長因子(HB-EGF:Heparin Binding Epidermal Growth Factor) mRNAの発現亢進を行うことが報告されています。これによりケラチノサイトが分裂増殖しターンオーバーが亢進します。
ヒアルロン酸・コラーゲン産生促進
目尻のシワ改善の有用性を認めた試験では、レチノールを連用することにより真皮内のヒアルロン酸やコラーゲンが増大することが認められています。レチノールの抗シワ作用は、ターンオーバーの亢進や真皮内成分の産生促進機序が複合的に作用した結果であると考えられます。
引用;大田 正弘.医薬部外品・有効成分レチノールによる改善効果;Fragrance Journal,2021(49)(5),38-45.
ニコチン酸アミド
ニコチン酸の生理学的活性型であるニコチン酸アミド(niacinamide)は分子量122.12(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透します。
美白効果としてはP&G、シワ改善効果としてコーセーの申請により医薬部外品成分として厚生労働省に承認された成分です。
ケラチノサイト増殖・分化促進
皮膚ケラチノサイトを増殖させ分化を促進します。表皮細胞の分化マーカーであるインボルクリンとフィラグリン産生量も増加します。これによりターンオーバーを正常に保ちます。
線維芽細胞増殖・コラーゲン産生促進
培養皮膚の表面にニコチン酸アミドを塗布して24時間培養した研究では、細胞外基質成分であるフィラグリンⅠ、フィブロネクチン、Ⅰ型コラーゲン、Ⅲ型コラーゲンを合成促進するmRNA量が増加したと報告があります。
まとめ
ニコチン酸アミドは表皮に対してケラチノサイトを刺激し細胞の増殖と分化を促進することで、表皮のターンオーバーを促進し、正常な角質層を保ちます。真皮に対しては真皮線維芽細胞を刺激し、細胞の増殖とコラーゲン産生を促進しrejuvenation を図ります。したがって表皮と真皮繊維が両方へアプローチすることでシワが改善されると推定されます。
三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸ナトリウム
三フッ化イソプロピルオキソプロピルアミノカルボニルピロリジンカルボニルメチルプロピルアミノカルボニルベンゾイルアミノ酢酸ナトリウム(訂正前は三フッ化メチルバリルプロリルバリルテレフタロイルグリシンナトリウム)は、ポーラ化成工業の申請によって2016年に医薬部外品のシワ改善有効成分として厚生労働省に承認されました。一般に「ニールワン(NEI-L1:Neutrophil Elastase Inhibitor-License 1)」とよばれる成分です。分子量592.54(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透しますが、分子量は他化粧品成分と比較して大きい方に入ります。
楊の研究報告では、シワが形成されやすい部位である目尻周辺の皮膚に白血球の好中球が局在することがわかりました。好中球が分泌が分泌する好中球エラスターゼ (NE) は、コラーゲン、エラスチン、およびプロテオグリカンを破壊します。したがって好中球エラスターゼ阻害薬のNEI-L1 はしわを改善することがわかりました。
カイネチン
カイネチンは老化を遅らせる効果を持つ合成サイトカイン植物成長ホルモンで、古来から欧米でシワ取り効果のある機能性化粧品に含有されています。機序としては抗酸化作用からなるとされています。
引用;Kinetin delays the onset of ageing characteristics in human fibroblasts
神経伝達物質ペプチド
引用;Usage of Synthetic Peptides in Cosmetics for Sensitive Skin
アセチルヘキサペプチド-8(Argireline®)
アミノ酸配列はAcetyl-glutamyl-glutamyl-methoxil-glutaminyl-arginyl-arginylamideである、アセチルヘキサペプチド-8はArgireline®として知られています。SNAP-25(特定の神経系のシナプス機能に役割を果たす)の断片で、ボツリヌス毒素の基質で、神経伝達物質(アセチルコリン)の放出を阻害します。10人の女性被験者のオープンスタディでは、このペプチドを含むクリームを1日2回塗布した1ヶ月後、しわの深さが27%減少したと報告されています。別の研究では1日2回の治療で最大48%の効果があったとも報告されています。
引用;Cosmeceuticals: peptides, proteins, and growth factors
引用;Enhanced Skin Permeation of Anti-wrinkle Peptides via Molecular Modification
ペンタペプチド-3(Vialox®)
アミノ酸配列はH-Gly-Pro-Arg-Pro-Ala-OHで、ペンタペプチド-3はVialox®のブランド名で販売されています。このペプチドは、curare(クラーレ)の主な活性化合物であるツボクラリンと同様の方法で作用します。curareと同様に、Vialoxはシナプス後膜に作用するアセチルコリン膜受容体の拮抗薬です。アセチルコリン受容体がブロックされるので、ナトリウムイオン(Na+)は放出されず、筋肉はリラックスしたままになります。メーカーが行ったin vivoおよびin vitro研究では、この製品がしわを柔らかくし、肌の粗さを軽減することを示しています。
ペンタペプチド-18(Leuphasyl®)
アミノ酸配列がメーカーによって公表されていませんが、ペンタペプチド-18はLeuphasyl®(ロイファシル)は、体のオピオイド受容体に結合する内因性リガンドであるエンケファリンを真似て開発されています。エンケファリンと同様に、このペプチドはニューロン内のカルシウムチャネルをブロックするため、アセチルコリンの放出を阻害します。メーカーによる研究によると、この分子はしわの深さを減らします。
Leuphasyl®とArgireline®の組み合わせは、相乗効果があることがわかっています。
パルミトイルトリペプチド-1≒パルミトイルオリゴペプチド
「パルミトイルオリゴペプチド」という名前は、1994年の開発時から2つの異なる分子を指定するために使用されたため、2013年に「除去」されました。2つの化合物は、化粧品の組成を明確にするために、パルミトイルトリペプチド-1(Pal-GHK)とパルミトイルヘキサペプチド-12(Pal-KTTKS)と改名されました。
パルミトイルテトラペプチド-7
IL-6の分泌を減少させ、UVB曝露後の炎症を軽減し、ラミニンIVとラミニンV、コラーゲンVIIの産生を刺激します。
アセチルジペプチド-1セチルエステル
パルミトイルトリペプチド-8
アセチルジペプチド-1セチルエステルとパルミトイルトリペプチド-8は敏感肌用化粧品として、その有効性と作用機序を裏付ける科学的根拠が証明されています。