くすみの原因は皮膚のターンオーバーの遅れ
加齢、肌荒れなどの影響によって皮膚のターンオーバーに遅延が生じると、剥がれ落ちるべき角質細胞が残ったままの状態となり、角質層に堆積していきます。これが角質肥厚です。角層が肥厚し部分的に皮膚が硬くなると、皮丘と皮溝の高低差が増し、キメが粗くなる過角化(角質肥厚:ハイパーケラトーシス)と呼ばれる症状が現れます。
引用;北島 康雄.皮疹の因数分解ロジック診断.2018:vol.1:14-82:192
また、皮膚の色を決めるメラニンは角化とともに角層へ押し上げられ、最終的には角質細胞の落屑によって皮膚から排泄されますが、ターンオーバーが遅延し表皮内に長期間滞留するとシミやくすみの原因となります。
さらに・・・・・・
紫外線を浴びた肌の角質細胞の表面には、微絨毛様突起と呼ばれる微細な無数の突起が発生しています。この突起がからみ合うことで、角質細胞同士が頑固に結びつき、剥がれにくくなっていることが研究で報告されています。原因として肌が紫外線を浴びると基底細胞内にGLUT-1と呼ばれるタンパク質が発生し、このGLUT-1が表皮細胞に影響を与え、微絨毛様突起が形成されるそうです。
しみの原因はメラニンの異常沈着
皮膚が紫外線に曝露されると、活性酸素が発生しメラノサイトを活性化します。メラノサイト内でのメラニン生合成は、メラニンを貯蔵する細胞小器官であるメラノソームで行われます。毎日生成されるメラニン色素は、メラノソーム内で増えていき、一定量に達すると樹枝状に伸びているデンドライト(メラノサイトの突起)を通して、周辺のケラチノサイトに送られます。一つのメラノサイトは36個のケラチノサイトにメラニン顆粒を供給しています。メラニンはターンオーバーとともに皮膚表面に押し上げられ、最終的には角片とともに垢となって落屑(排泄)されるというサイクルを繰り返します。シミやくすみはこのターンオーバーがうまくいかないことで沈着したメラニンを見ているのです。
引用;大塚藤男.皮膚科学.2016;vol.10,35:968
メラニン生合成経路
ヒトの皮膚色は4種類の色素、「メラニン」「カロチン」「酸化型ヘモグロビン」「還元型ヘモグロビン」により決定しています。その中で最も重要な因子はメラニン色素です。メラニンはフェノール類物質(チロシン、ドーパ、ドーパキノン)の酸化により形成された高分子色素の総称です。
生合成経路としてはアミノ酸の一種かつ出発物質であるチロシンに律速酵素であるチロシナーゼが働きかけることでドーパに変換され、さらにドーパにも働きかけることでドーパキノンへと変換されます。ドーパキノンは、システイン存在下の経路では黄色-赤色のフェオメラニン(pheomelanin)へ、それ以外はドーパクロムまで変化し、そこからDHI(5,6-dihydroxyindole)に変化する合成経路と、TRP-2(tyrosinaserelated protein-2)およびTRP-1(tyrosinaserelated protein-1)と反応する合成経路の2つの経路から茶褐色-黒色のユウメラニンに合成されることが知られています。このようにフェオメラニンとユーメラニンが混ざり合い肉眼的に観察される色を呈します。
引用;Hiroshi Tanaka. Skin Whitening Products and Their Effects.
引用; Modulating skin colour: role of the thioredoxin and glutathione systems in regulating melanogenesis
このような背景から、チロシナーゼおよびTRP-2の活性を阻害することは色素沈着の抑制において重要なアプローチであると考えられています。
しみの種類
・肝斑
・老人性色素斑
・雀卵斑(そばかす)
・ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)
・色素沈着型皮膚炎(炎症後色素沈着など)
肝斑
老人性色素斑と異なり、メランサイトの増殖は伴わず、メラノサイトにおけるメラニン生成が亢進し、かつメラノサイトの数が増加しています。
老人性色素斑
老化と慢性の紫外線曝露により生じ、自然消退することはなく、大小不同の境界明瞭な円形の色素斑として表れます。紫外線のより細胞が損傷されると表皮ケラチノサイトとメラノサイトが増殖し、ケラチノサイトがET-1(Endothelin-1)、SCF(Stem Cell Factor)、POMC(Pro-Opio Melano Cortin)を介してメラノサイトを活性化します。活性化したメラノサイトはMITF(MIcrophthalmia associated Transcription Factor)、c-KIT、チロシナーゼの発現を亢進し、メラニン産生を促進します。
肝斑治療で使用するトラネキサム酸は効果がなく、トレチノイン・ハイドロキノン外用では効果が弱いです。唯一の治療がレーザー治療です。角化傾向が強ければCO2レーザーを使用したりします。
雀卵斑(そばかす)
常染色体優性遺伝で、色白の人の日光曝露部に好発します(染色体4q32-q34が責任遺伝子)。
自覚症状はなく2〜4mm大の褐色の色素斑が鼻・頬を主体に散在します。多発の小色素斑です。夏に増悪する特徴があります。一方で老人性色素斑は治療しても夏に再燃傾向はありません。
肝斑治療で使用するトラネキサム酸は効果がなく、トレチノイン・ハイドロキノン外用では効果が弱いです。レーザーやIPL治療が有効です。ただし遺伝性皮膚疾患である故、完治することはなく薄くすることがゴールです。
後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)
元来メラニン産性能を持たない未熟なメラノブラストが真皮に存在しているが、紫外線などの刺激によりメラニン産性能を有するメラノサイトとなり色素斑を軽視する病態です。額外側、頬部、鼻翼部などに茶褐色の3〜5mm大の斑が左右対称性に認められます。肝斑治療で使用するトラネキサム酸は効果がなく、トレチノイン・ハイドロキノン外用でも効果はありません。唯一の治療がレーザー(レーザートーニングでは効果なし)です。
色素沈着型皮膚炎
接触性皮膚炎を繰り返した後に茶褐色の色素斑の色素沈着を生じます。色素沈着に先行して掻痒感や軽度の紅斑などの炎症症状が見られることが多いです。急性期であればトラネキサム酸の外用が有効です。炎症後色素沈着であれば長くても1年で自然消退するため、リスクとベネフィットと天秤にかけて治療することは可能です(赤みがなくなっていれば美白外用剤を使用)。