イオン導入

イオン導入

皮膚は非常に優れたバリアーであり薬のような低分子物質ですら簡単に透過しません。簡単に外部からいろいろな物質が侵入しては困るからです。そのため手のひらで化粧水や美容液をつけても効率的に浸透されません。通常のスキンケアでは基底層やその下の真皮層まで有効成分が浸透することはほとんどなく、角質層の保湿にとどまります。経皮吸収に適応可能な物質特性として、低分子(受動拡散では500 Da以下) であること、ある程度の疎水性を有することがあげられます。これ以外の物質は効率よく浸透されないため、皮膚透過性を上げるために開発されたのがイオン導入です。

イオン導入とは

イオン導入とはイオントフォレシス(iontophoresis)、エレクトロポレーション(electrophoresis )それぞれを意味したり、機械によっては両方組み合わせたものをイオン導入と言ったりします。いずれにせよイオン導入器を使用して微弱な電流を流し美容液を経皮的に肌の深部に浸透させる方法です。電気によって毛穴から製剤を毛包内に浸透させるため毛包性疾患であるニキビに特に有効です。さらにレーザーや光治療と違い刺激を与える治療ではないため肝斑にも効果的です。肌のトーンアップ目的など疾患以外、肌のメンテナンスにも使用できます。入れる製剤によって付加効果が変わってきます。

引用;Iontophoresis in dermatology

引用;引用;Adjuvant alternative treatment with chemical peeling and subsequent iontophoresis for postinflammatory hyperpigmentation, erosion with inflamed red papules and non-inflamed atrophic scars in acne vulgaris

イオン導入のメカニズムについて

①エレクトロポレーション(電気的穿孔法)

イオン導入機(スティック)でマイナスの電流を流します。スティックから高電圧パルスを負荷することで顔全体の細胞膜に一過性に微細な穴を開けていきます。これをエレクトロポレーション(電気的穿孔法)と言います。実際に穴を開けているというよりは角質細胞間を広げているというイメージです。

②イオントフォレシス(イオン導入)

電気的穿孔が終わったら、一過性の皮膚孔が閉じる前にイオントフォレシスを行い電気の力で荷電性薬物(予め塗って置いたマイナスに帯電したアルカリ性美容液)を皮内に押し込んでいきます。具体的には電気が流れるローラーで押していきます。これによりローラー(電極)と皮膚の間にマイナス荷電した美容液を充填し、マイナス電流を流すことで電気的反発でマイナス荷電した美容液を皮膚内に送り込むことができます。それにより、肌の深部へと美容液成分が逃げ込んでいき、肌の奥まで浸透していくのです。

引用;イオントフォレシスによる高分子の皮膚透過

 

引用;株式会社セレーネメディカル.mesons-J.

イオン導入で使用される美容液について

CoQ10(ユビキノン)

分子量は(1000>)863(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透しません

ユビキノンの美容液としての効果は抗酸化作用、紫外線照射による脂質の過酸化を抑制することを期待して使用されます。

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ビタミンB12(シアノコバラミン)

分子量1355.38(>1000)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透しません。ビタミンB12は、赤い色をした眼精疲労の点眼薬や化粧品で使用されることも多いです。化粧品に配合される場合は睡眠覚醒リズム障害の改善、着色を期待して配合されます。

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ビタミンA(パルミチン酸レチノール)

分子量(1000>)524.86(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透は可能です日本で外用剤として認可されているレチノイドは生理活性の強い順にレチノール>酢酸レチノールパルミチン酸レチノールがあります。イオン導入で用いるビタミンAは生理活性が最も弱いパルミチン酸レチノールです。

目尻のシワ改善の有用性を認めた試験では、レチノールを連用することにより真皮内のヒアルロン酸やコラーゲンが増大することが認められています。さらにケラチノサイトの成長を促進し細胞分裂を活性化することで皮膚ターンオーバーを促進することでくすみ対策にもなります。レチノールの抗シワ作用は、これらの機序が複合的に作用した結果であると考えられます。

引用;大田 正弘.医薬部外品・有効成分レチノールによる改善効果;Fragrance Journal,2021(49)(5),38-45.

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AC-11(ウンカリア・トメントサエキス)

AC-11は日常生活で避けられない皮膚のDNA損傷を修復することが報告されています。

皮膚以外でも全身では損傷したDNAは修復を常にしています。しかし修復しきれなかった場合は損傷したDNAがコピーされていきます。例えば皮膚であればこの損傷したDNAの増殖が繰り返されていくうちに皮膚癌を起こしていく場合があります。皮膚癌にならなくても皮膚ターンオーバーの遅延によるくすみ、メラニンの生成によるしみ、コラーゲン破壊によるしわなどが目立ってきます。

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アルブチン

資生堂の申請により医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。

アルブチンは、コケモモやウワウルシなどの植物に含まれる天然型フェノール性配糖体、すなわち、ハイドロキノンとグルコースがβ結合したハイドロキノン誘導体であり、チロシナーゼの活性阻害作用によりメラニン生成を抑制します。また、紫外線によるシミ防止効果を示すことが知られています。

アルブチンは美白効果が認められているものの配糖体であり化学的に不安定であるという問題があります。

分子量は272(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透します。

引用;前田憲寿.アルブチンのメラニン生成抑制機序と美白効果.FRAGRANCE JOURNAL(増刊),14:127-132,1995.

引用;アルブチンのメラニン生成抑制作用 B16メラノーマ培養細胞による生化学的研究

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アルジレリン

アルジルリンまたはアルジレリンは、アセチルヘキサペプチド-3とも呼ばれペプチドの一種です。注射で使うボツリヌストキシンを模倣して開発されました。ボトックスとは異なり、注射を必要とせず外用で効果を出すことができ、急性毒性症状は出ません。

期待される効果としては目周りのシワや皮膚の粗さの改善です

引用;The Anti-Wrinkle Efficacy of Argireline, a Synthetic Hexapeptide, in Chinese Subjects

分子量は(1000>)889(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透しません。さらに両性イオン型であることも皮膚浸透性を妨げていますこの両性高分子を浸透させるにはイオン導入が最適です。

引用;Enhanced Skin Permeation of Anti-wrinkle Peptides via Molecular Modification

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ビタミンC誘導体(プロビタミンC)

APPS(パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na)とAPS(アスコルビルリン酸Na)が配合されています。APPSはチロシナーゼ阻害作用による美白効果とコラーゲン合成促進作用による抗シワ効果が期待される浸透性に優れた両親媒性ビタミンC誘導体です。分子量は(1000>)560.46(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透します。皮膚に塗布した場合は、細胞膜に存在するエステラーぜによりアスコルビン酸(ビタミンC)に分解され、アスコルビン酸として機能します。親水性のアスコルビン酸にパルミチン酸を付加することにより、脂溶性の性質も持った両親媒性のビタミンC誘導体となっているため、高い安定性(熱や酸化に強い)真皮まで到達する皮膚浸透性の高さから高浸透型ビタミンC誘導体に分類されています。

APPSはこのように高い皮膚浸透性を示していますが、水溶液として製造されると徐々に加水分解されたり、温度状態により沈殿したり長期安定性を保つことが困難であることも知られています。イオン導入では浸透性を高めるために粉末状で開封し塗布直前に水溶液を作成しています。

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トラネキサム酸

トラネキサム酸は分子量が157(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易に浸透します。肝斑では内服治療がエビデンスの高い治療ですが、重症肝斑の場合には内服だけでは改善しないことがあります。そこで刺激をしないで治療できるイオン導入によりトラネキサム酸を肌に浸透させることは非常に効果的です。肝斑以外でも肌荒れではプラスミン活性が高く、トラネキサム酸のいい適応です。浸透によりアレルギー性炎症を抑えるからです

肝斑、肌荒れ(ニキビも)、皮膚炎、紫外線誘導性色素沈着

上記によリ誘導される新規の色素沈着

トラネキサム酸について