慢性炎症(代謝炎症)は、生活習慣病である2型糖尿病や肥満、心血管疾患などの発症に大きく関わる要因として考えられています。そこで近年、慢性的な炎症で老化が進み、発症する疾患の予防効果が期待されるNMNが研究されています。
NMNとは
NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は生体内で酸化還元反応に寄与するNAD+の前駆体です。NAD+の前駆体である NR(ニコチンアミドリボシド)やNMNを補充することで間接的にNAD+の合成促進を図ります。NAD+は組織で加齢に伴う機能低下と疾患の状態を改善します。
NMNは律速酵素であるニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)によってニコチンアミドからも合成されています。NRキナーゼ(NRK)を介したリン酸化反応によってNRからも合成されています。
引用;NAD + Intermediates: The Biology and Therapeutic Potential of NMN and NR
NMNを投与することは間接的にNAD+を投与しているのと同じです。
NAD+の歴史
NAD+はもともとは酵母抽出物の発酵率を高めることができる要因として1906年にHardenとYoungによって発見されました。その後NAD+はヌクレオチド(核酸)であり、酸化還元反応に役割を果たすことが2004年にWarburgにより判明されました。ElvehjemはニコチンアミドがNAD+を合成し、犬のペラグラを防ぐことを証明しました。そしてNAD+前駆体のニコチンアミドとニコチン酸をビタミンB3と名付けました。NAD+前駆体は野菜や果物、肉などの多種多様な日用品に含まれています。
NAD+と年齢・疾患の関係性
NAD+は年齢が上がることによりレベルが低下することがわかっています。したがって、加齢による機能低下が原因の疾患を予防する効果が期待されています。
引用;Age-associated changes in oxidative stress and NAD+ metabolism in human tissue
①脂肪組織中のNAD+は2型糖尿病と心血管疾患のリスク因子であるインスリン抵抗性を改善する可能性がある
②骨格筋を含む様々な代謝器官のミトコンドリア機能を改善する可能性がある
③全身のエネルギー消費を増やすことで体重減少効果をもたらす可能性がある
④NMNは高脂肪食によるグルコース不耐症と脂質異常症を改善する
⑤ NMNは脳内の多くの神経機能を改善する可能性がある
※線量反応研究から得られたデータでは、低容量の方が虚血性脳血管障害への効果が高いと報告されています。例えば62.5mg/kgのNMNは125mg/kgよりも虚血性脳血管障害をより効果的に治療した。
NRについて
NRはNLRP3インフラマソームの活性化の低下により、部分的に炎症を軽減する作用が報告されています。TNF-α、IL-6、IL-1を含む炎症性サイトカインを大幅に改善するため、炎症性肝炎を改善することが期待されています。
【炎症・インフラマソームについて】
インフラマソームとは炎症反応に関わるIL-1を誘導するためのタンパク質です。様々な疾患で組織に沈着した過剰な内因子や外部から侵入した病原菌により活性化されます。例えば、アテローム硬化性病変内のMØ内のコレステロール結晶、メタボリック症候群や2型糖尿病の脂肪組織内の遊離脂肪酸や脂質、痛風や偽痛風の結晶、Alzheimer‘s病変内のβアミロイドが挙げられます。これらが細胞内のインフラマソームを活性化し炎症反応が誘導されます。
引用;Abul K,et al.分子細胞免疫学.2018;vol.9:65:578.
この事実からNMNの摂取により細胞内レベルでの炎症を部分的には抑えられ、上記の様な慢性炎症がベースにある疾患の予防・改善が見込めるのではないだろうか。
NMNのエビデンス
国内では慶應義塾大学医学部臨床試験ユニットで、NMN経口投与の安全性を評価した論文があります。そこでは、10人の40~60歳の健康な男性を対象に非盲検臨床試験を実施しました。投与方法は一晩絶食した後、午前9時にカプセルで100mg、250mg、500mgのNMNを経口投与し、水のみを自由に飲んで安静時に5時間経過観察しました。結果は500 mgまでのNMNの単回経口投与は、重大な有害作用を引き起こすことなく、安全が証明されました。
まとめ
NMNの投与に関するエビデンスレベルの高いヒトを対象とした論文が不足しています。理論上及びマウスでの実験では少なくとも、慢性炎症がベースにある疾患の予防・改善が見込めていること、体内に存在する安全性が担保された製品であり、サプリメントとして試してみる価値はありそうです。ただ同じ対象者で、飲む場合と飲まない場合での比較ができないこと、日々の変化で気づく様な若返りは期待できないのではないだろうか。痛風や脂肪肝・糖尿病などの起こりやすさを減らすことができるかもというレベルの立ち位置と認識しています。