ケミカルピーリング
外用剤を皮膚に塗布し化学変性による皮膚剥離と創傷治癒機転による表皮と真皮の再構築を促し、皮膚疾患の改善とrejuvenation(若返り)効果をもたらす治療法のことです。
ケミカルピーリングの歴史
ケミカルピーリングの歴史は古く、1882年にドイツの皮膚科医Unnaが、サリチル酸、レゾルシノール(ジヒドロキシベンゼン)、フェノール酸を用いて行ったのが初めと言われています。その後、1960年に形成外科医Barkerらがフェノール酸によるケミカルピーリングでrejuvenation治療として確立しました。しかし当時の方法ではdeep peelingといって剥離範囲が真皮全層までだったため、副作用である色素沈着や瘢痕形成が多発しました。それにより日本では定着しませんでした。それから1974年ごろにVan Scottがα-ヒドロキシ酸(AHA:グリコール酸、乳酸、マンデル酸、クエン酸)を用いたsuperficial(表皮全層まで)ピーリングの研究を開始し、副作用も少なく、全然であるとされ、1994年にAHAピーリング剤の輸入認可が厚生労働省から下されました。
ピーリング剤の種類と深達度
ピーリング剤 | 薬剤深達度 |
SA(サリチル酸) | 〜30%:角質層 |
AZA(アゼライン酸) | 〜20%:角質層 |
RA(レチノイン酸) | 〜0.1%:角質層 0.1%〜:表皮全層 |
GA(グリコール酸) | 〜50%:角質層 50%〜:表皮全層 |
TCA(トリクロロ酢酸) | 〜10% :角質層 10〜25%:表皮全層 25〜50%:真皮乳頭層 50%〜. :真皮全層 |
ケミカルピーリングの剥離深度が角質層に留まるのはSA、AZA、RA、50%未満GA、10%未満TCAと言われています。
マンデル酸も安全なケミカルピーリングとして確立しているが、分子量がGAやLAなどのAHAよりも大きく皮膚への浸透が弱いため除外した。(マンデル酸はアーモンドから抽出したフルーツ酸)
ケミカルピーリングの適応
推奨度が高い疾患:痤瘡
適応のある疾患:毛孔性苔癬、PIH(炎症後色素沈着)、肝斑、雀卵斑、老人性色素斑
疾患別のエビデンスレベル
痤瘡
GA、SA
GAは〜50%であれば角質層がターゲットで、異常角化した角質をピーリング(剥離)することでニキビの予防から炎症期のニキビの治療につながります。さらにpHを弱酸性に保つことでニキビができにくくするのと同時に原因のニキビ菌の殺菌も行います。
陥凹性瘢痕
GA、TCA
痤瘡瘢痕に対しては浅い陥凹であれば20%GA、深い陥凹であれば30%〜40%GAを使用します。
肝斑
GA、TCA、乳酸、SA
日本皮膚科学会ガイドラインでは肝斑に対するケミカルピーリングはGA、TCA、乳酸、SAですが、いずれも推奨度はC2(十分な根拠がないので現時点では推奨できない)です。しかしGAには表皮ターンオーバーの亢進、角化細胞におけるサイトカインネットワークへの関与、メラニン生成抑制、真皮線維芽細胞の活性化などの作用があることが示唆されています。肝斑病変部のメラニン生成抑制と表皮のメラニン排泄目的で肝斑にGAによるケミカルピーリングが使用されることが多いです。
引用;Chemical Peels in Melasma: A Review with Consensus Recommendations by Indian Pigmentary Expert Group
血管が増生しているタイプではピーリングの反応がむしろ強く出てPIH(炎症後色素沈着)をきたすことがあります。美白剤に対する接触性皮膚炎などで美白剤の外用が難しい症例やTA内服、美白外用治療でも難治例の場合の選択肢という位置付けです。
雀卵斑
GA
老人性色素斑
小型⇨GA、SA
大型⇨TCA
炎症後色素沈着
GA
小じわ
GA、SA
副作用
軽微な局所の発赤、一過性の刺激感程度です。稀に紅斑、水疱、びらん、潰瘍、痂皮、色調変化、一過性の毛穴の拡大、血管拡張などが起こり得ます。
まとめ
ケミカルピーリングのほとんどが角質層の剥離をメインとしていることがわかります。各ピーリング剤の中でもGA(グリコール酸)がケミカルピーリングの適応疾患に全て該当していることから万能なピーリング剤といえます。以上のことから真皮のリモデリングが必要な陥凹性瘢痕やrejuvenation目的であればTCA、それ以外であれば基本的にはGAで十分と言えます。
ケミカルピーリングができない方
・単純ヘルペス、口唇ヘルペス
・日焼けをしている方
・皮膚炎や外傷がある方
・真性ケロイド体質
・妊娠中/授乳中
・結果に過度な期待をしている方