ピコ秒レーザー
ピコレーザーとはピコ秒(1兆分の1秒)単位で照射することができるレーザーのことで複数のマシンがあります。それぞれのマシンごとに、波長・パルス幅が異なり、それによって、それぞれ特徴が異なってきます。
ピコ秒レーザーの歴史
ピコレーザーの歴史は意外と古く、1996年から始まっています。ピコ秒レーザー開発はタトゥー除去を目的に進められてきました。1998年にヒトに対する臨床報告があり、1064nmのNd:YAGレーザーを用いて35psと10ns照射の比較検討が行われ、黒色タトゥーに対しては35psは10nsよりも色素褪色効果が大きかったものの、緑や黒系以外のタトゥーに対しては有効ではなかったと報告されています。つまりそれまでは単一波長のピコ秒レーザーで多色彫りのタトゥー治療可能になると考えられていたが、実は波長に応じた色素選択性が残存していることが明らかになりました。その後Cynosure社がPicosure®︎(波長755nm、パルス幅750ps)を開発し、青色と緑色のタトゥー除去が2012年から始まりました。以降各社が主な発振波長である1064nmに波長変換をかけ、第3の波長を搭載しています。ただしいずれのレーザーも第3の波長は波長変換して得られているため、ピークパワーや最大照射エネルギー密度が低くなっています。
引用;Successful and Rapid Treatment of Blue and Green Tattoo Pigment With a Novel Picosecond Laser
ピコ秒について
ms(ミリ秒) | 1/1000 秒 |
μs(マイクロ秒) | 1/1,000,000 秒 |
ns(ナノ秒) | 1/1,000,000,000 秒 |
ps(ピコ秒) | 1/1,000,000,000,000 秒 |
ピコ秒とは1兆分の1秒とこれまで開発されてきたレーザーの中でもダントツ一発の照射時間幅が短いことになります。
この照射時間をパルス幅と言いますが、パルス幅が短いほど瞬間的な力が強くなり、破壊力も大きくなります。
レーザーの破壊力を規定するものは波長(nm)、パルス幅(s)、フルエンス(J/cm2)です。破壊力を上げるには、パルス幅(s)を短くすること、照射エネルギー量(フルエンス;J/cm2)を上げることが重要です。
照射径を上げるほど深達度は増します。
フルエンス(J/cm2)とは単位面積あたりに与えるエネルギーですが、単位面積(分母)が小さいほど大きくなります。
ピコ秒レーザーの作用機序
ピコ秒レーザーはナノ秒レーザーよりもパルス幅が短いので、例えばメラニン顆粒の熱緩和時間よりはるかに短い照射時間で周囲に熱影響を与えることなく、瞬間的に高いピークパワーで選択的に標的組織を破壊することができます。つまりレーザーによる光熱作用が起こる前に、レーザー照射により標的物質が熱膨張され、その熱弾性過程により光音響波が生じます。この生体反応を光音響作用と呼んでいます。照射時間が短くなるほど光熱作用が弱くなり光音響作用が強くなります。ピコ秒レーザーではピークパワーが高くなったことで、発生するプラズマ効果でシワや痤瘡後瘢痕などの治療ができるフラクショナルモードも可能となっています。
熱緩和時間:光が吸収されて周囲に波及するまでの時間は物質の大きさ、構造、構成などに依存していて、熱伝導により半分の温度に他するまでの時間を指します。
ナノ秒レーザーとの違い
ピコ秒レーザーでは光熱作用よりも光音響作用の方が優位になり、標的物質が壊れやすくなります。したがってQスイッチレーザーの様なナノ秒レーザー(ps/nsの単位自体は1000倍違うが実際の瞬間的照射時間は10〜20倍程度長いだけ)と比較して、低い出力で同等またはそれ以上の治療効果が得られると考えられています。低出力で照射を行うため、炎症後色素沈着などの合併症の発症を抑えることができます。
レーザー治療ではダウンタイムが短いピコレーザーが頻用されますが、必ずしもピコレーザーが効果が高いとは限りません。
ナノ秒レーザーは光熱作用が強いため大きく濃いシミに、ピコ秒レーザーは光音響作用が強いため、小さく薄いシミに対して効率がいいです。これらの事実からよく前者をハンマーに、後者をトンカチに例えられたりします。濃いシミはメラニンがたくさんあるため、Qスイッチナノ秒レーザーの方が有効な場合がありますが炎症後色素沈着や火傷のリスクが高くなります。大きく濃いシミであればQスイッチナノ秒レーザーで薄くしてピコ秒レーザーで仕上げることも可能です(全てピコ秒レーザーで行うのも可能)。
ピコ秒レーザーのメリット
痛み・火傷・色素沈着のリスク低減
ピコレーザーは上記で説明したように従来のレーザーよりもはるかに短い照射時間(パルス幅)で照射できるようになったことで破壊力を増し、高い照射エネルギー量で照射する必要性がなくなりました。これまでは高いエネルギー量で色素を破壊せざるをえなかったのですがその代償として、周囲の正常な細胞にまで熱を与えてしまい、強い痛み、火傷や炎症後の色素沈着などを合併していました。ピコレーザーの誕生により少ない熱量で治療することができる様になったのです。
超短パルス幅なので熱がほとんど発生しない
薄いしみに効果的
ピコレーザーは色素が薄くても高い照射エネルギーを与えないため、大きな合併症を起こさずに小さいメラニンを破砕することで、従来のQスイッチレーザーでは反応しなかった薄いしみも改善することができます。
ピコ秒レーザーのデメリット
赤ら顔、大きな/濃いシミ、脱毛には向かない
ピコレーザーは対象となるメラニン量が多い場合や範囲が広い場合、つまりシミが濃い・シミが大きい・脱毛などでは十分に損傷できる破壊力がないため向かないです。他にはヘモグロビンがターゲットになる赤ら顔には、吸光度的に最も効率がいいレーザーとしてダイレーザー(585nm)がありますが、現状はそれに近い波長が搭載されているピコ秒レーザーがないため向かないです。
ピコ秒レーザーマシンの種類
厚生労働省に認可されているものは以下の4つです。
enLIGHTen
Cutera社(米国)製ピコ秒Nd:YAGレーザー
enLIGHTen SR | enLIGHTen Ⅲ | |
波長/パルス幅 | ・532nm/750ps ・1064nm/750ps |
・532nm/750ps ・670nm/660ps ・1064nm/750ps |
ターゲットとする色素 | 赤・橙・黄・茶・黒 | 赤・橙・黄・緑・青・茶・黒 |
enLIGHTen Ⅲの670nmの波長は血液(ヘモグロビン)への干渉が低く、血管損傷を抑えられます。また、メラニンへの選択性もある程度高く色素性疾患により効果的な治療が可能です。皮膚深達性にも優れており、浅在性から深在性の色素性疾患治療に最適で、従来の波長だけでは難しかった青・緑色の刺青除去にも対応可能です。
照射パターン:円形
保険適応疾患:太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性色素沈着症
enLIGHTen®︎の1064nmは以下の3つの点で頻用されているPicosure®︎の755nmよりトーニングとフラクショナルに関しては優性であると考えています。
1つ目は波長1064nmは755nmより長く深達性に優れていること、2つ目はYAGがAlexよりもメラニン吸光度が低く、高出力が出せること、また周囲の正常メラニンに吸収されない為より深達性が高いからです。これにより真皮へのrejuvenation効果は高くなります。3つ目はMLA(MicroLensArrays)により創生されたレーザー光先端出力がAlexより入射角に左右されないなど、極めて効率よくプラズマ発生が産生されるという特徴があります。特に顔面や頸部などの球面の多い部位に対して、入射角の問題を考慮する必要が少ないという利点は大きいです。
PicoSure
Cynosure社(米国)製ピコ秒アレキサンドライトレーザー
波長/パルス幅 | ・532nm/450ps ・755nm/550〜750ps |
ターゲットとする色素 | 赤・橙・黄・緑・青・茶・黒 |
755nmの波長は血液(ヘモグロビン)への干渉が低く、血管損傷を抑えられます。また、メラニンへの選択性もある程度高く色素性疾患により効果的な治療が可能です。皮膚深達性にも優れており、浅在性から深在性の色素性疾患治療に最適で、従来の波長だけでは難しかった青・緑色の刺青除去にも対応可能です。
照射パターン:四角形
PicoWay
Syneron-Candela社(米国)製
波長/パルス幅 | ・532nm/375ps ・785nm/300ps ・1064nm/450ps |
ターゲットとする色素 | 赤・橙・黄・緑・青・茶・黒 |
785nmの波長は血液(ヘモグロビン)への干渉が低く、血管損傷を抑えられます。また、メラニンへの選択性もある程度高く色素性疾患により効果的な治療が可能です。皮膚深達性にも優れており、浅在性から深在性の色素性疾患治療に最適で、従来の波長だけでは難しかった青・緑色の刺青除去にも対応可能です。
照射パターン:円形
保険適応疾患:太田母斑、異所性蒙古斑、外傷性色素沈着症
Discovery Pico Plus
Quanta社(イタリア)製ピコ秒Nd:YAGレーザー
波長/パルス幅 | ・532nm/370ps ・1064nm/450ps |
ターゲットとする色素 | 赤・橙・黄・茶・黒 |
YAGレーザーのみなので他の機種と比べると汎用性は低いです。
照射パターン:円形と四角形を選択できる
治療モード
スポット
しみ取り
老人性色素斑、雀卵斑、ADMのしみが対象になることが多いです。角化傾向がなく、濃いしみでない場合が適応になりやすいです。色の濃淡や辺縁からある程度のしみの局在を把握し照射するレーザーの波長やスポット径を調整します。肝斑には照射することはできません(肝斑が老人性色素斑に合併していることは多々あり、肝斑にレーザーが高出力で当たることで脱色素斑になることがあります)。
タトゥー・アートメイク除去
タトゥーやアートメイクでは赤系の色でない場合は1064nmなど深達度が高いレーザーを選択します。1064nmでは表皮焼けよりは真皮熱傷のリスクの方が高くなります。赤系であれば532nmを使うことが多く、緑や青では700nm前後の波長を選択することが多いです。したがってレーザーにより搭載していない波長があるため除去しづらい場合があります。
タトゥー除去後の反応は変色(黄色、グレー、ベージュなどその他色)、インクが濃くなる、タトゥー周囲の紅斑や水疱、色素沈着、色素脱失があり得る合併症です。インクが濃くなるのは酸化第二鉄(Fe2O3:錆色)が酸化第一鉄(FeO:黒色)に変化することが原因と考えられています。タトゥー周囲に紅斑や水疱が見られる場合もありますが火傷ではないので、通常5〜7日間で消退します。色素沈着や色素脱失はどのレーザー治療でも起こりうる合併症で、濃いスキンタイプによく見られる現象です。一時的な場合が多く、1〜12ヶ月で消退します。
回数については密度の濃い黒いインクは1回の治療で除去されません。レーザーエネルギーは上の層から徐々にインクをターゲットにしていきます。上層のインクが除去されてから、段々と深部のインクをターゲットにしていきます。どれくらいを望んでいるかは人それぞれなため、目安の目標はないと考えています。
トーニング
低出力で顔全体に照射する施術方法です。肌のくすみや色ムラなど全体のトーンを明るくし、美肌効果を高めます。繰り返すことでrejuvenation効果、浅いニキビ痕の改善が期待できます。しみのスポット照射治療で薄くなった後に仕上げで使うこともあります。
フラクショナル
皮膚表面にダメージを与えずに真皮のコラーゲンやエラスチンを増加させ、シワ・ニキビ跡・毛穴の開きを改善します。肌の若返りにも非常に高い効果を発揮します。トーニングより高い効果が期待できます。
治療回数
局所的なシミ
⇨スポット治療;1回で改善が期待できる
顔全体のシミ治療や肌質改善
⇨ピコトーニング/フラクショナル;6回以上、1カ月~2カ月毎
アートメイク、タトゥー除去
⇨3〜5回(個人差あり)6週〜3カ月毎
※長い間隔の方が回数は少なくて済むと報告がある
※照射時に痛みを伴います。痛みで反射的に動いてしまうと危険を伴う眉のアートメイクでは麻酔クリームを推奨します。