皮膚について
皮膚は私たちの体を覆い生命活動を守る器官であり人体最大の臓器です。水分を保持したり、外部からの異物の侵入を防ぐ役割があります。また、暑い時には汗をかくことで水分を出し体温を適切な温度に保ったり、痛みや痒みを感じることで体を危険から守っています。皮膚の表面積は1.6m2、3kg弱で皮膚の厚み(表皮 0.2mm+真皮 1.8mm)は平均2.0mm、皮下組織も加えると重さは9kg、体重の14%といわれています。
表皮は発生学上は外胚葉由来で神経と同じです。右利きか左利きかが頭のつむじの向きに現れると言われるているのはこれが由来です。つまり利き手を左右するのは神経が関与(右手は左脳に支配、左は逆)するため発生学上同じ表皮であるつむじに現れるということです。
皮膚は大きく分けると2層構造となっています。
イメージとしては、2層式ベッドマットレスの1枚目が表皮、2枚目の分厚い部分が真皮層です。マットレス(ここでいう真皮の例え)はスプリングバネがあると思いますがコラーゲン線維は骨組みを作るバネです。真皮については後述します。
日本人と白人の皮膚の違い
日本人の角質層は白人の2/3ほど薄く、皮脂腺量は20%多く、皮脂腺が発達している分、真皮や皮下組織も厚いと言われています。特に毛穴が気になる鼻はわかりやすい例です。日本人は皮脂腺が発達しているため、毛穴が開きやすく、それを支える皮下組織が厚いため鼻が分厚い方が多いです。ただ、白人に比べて角質層が薄く真皮の量が多い分、皮膚のキメが細かくシワは少ないと言われます。(鼻翼軟骨も白人と比べて開いてるため、横に大きく見えます。皮膚とは関係ありませんが‥)
この事実からサリチル酸やトレチノインといったピーリング作用がある薬を使う場合は、必ずしも日本人全員に濃度や種類が適応するとは限りません。
表皮について
表皮は95%以上が角化細胞(ケラチノサイト)から構成され、残りは色素細胞(メラノサイト)、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞が占めています。表皮は重層扁平上皮で、組織学的に下方から基底層、有棘層、顆粒層、角層の4層に分けられています。 ケラチノサイトは表皮最下層である基底層で生成され続けています。
引用;Tatsuo Sakai , et al.人体の正常構造と機能.日本医事新報社 2012;vol.2:736:879.
角質層について
表皮最外層で20μmの厚さ、脱落した死細胞が膜状となり重層化し、最後には「垢」となって剥離されます。角層は外部からの病原体の侵入を防ぎ、体内の水分やタンパク質が漏出するのを防ぐバリア機能の働きがあります。角質細胞内はケラチン線維束とフィラグリン分解蛋白からなります。「角化」とは基底細胞から最終産物の角質になるまでの過程のことを言います。
角質層は「煉瓦とモルタル構造」と例えられます。
角質細胞を煉瓦、モルタルがセラミド(細胞間脂質)
角化細胞の生化学変化について
顆粒層:
有棘層:
基底層:
真皮について
コラーゲン線維は真皮の構成成分の一つで、真皮の90%を構成する太い線維束のことを指します。他にも真皮を構成するものは以下の通りです。
・膠原線維(コラーゲン線維)
・弾性線維(エラスチン線維)
・細胞成分(線維芽細胞、マクロファージ、肥満細胞、形質細胞)
・基質(グリコサミノグリカン,プロテオグリカン,フィブロネクチン)
・脈管(血管・リンパ管)
・神経(知覚神経、自律神経)
・筋肉(立毛筋)
膠原線維(コラーゲン線維)
膠原線維(コラーゲン線維)は真皮の90%を構成する太い線維束のことです。主にグリシン・ハイドロオキシプロリン・ハイドロオキシリジンと少量の糖から成る糖蛋白です。コラーゲンの合成にはサイトカイン・ホルモン・ビタミンなどが関与しますが、コラーゲンの遺伝子転写活性を増強する因子としてTGF-βやPDGFがあり、抑制する因子としてIFN-α、IFN-γがあります。主要なコラーゲンはタイプⅠコラーゲンで80%を占めています。真皮内の線維量は多い順にタイプ Ⅰ > Ⅲ > Ⅴ です。
弾性線維(エラスチン線維)
皮膚、肺胞、動脈壁、腱などに分布しています。膠原線維に比べると存在量も少なく、強さもないが弾力性に優れ、伸展性があります。
細胞
線維芽細胞:真皮内の膠原線維・弾性線維と基質を産生しています。副腎皮質ホルモンと甲状腺ホルモンが関与しています。
マクロファージ:正常では毛細血管周囲に少数存在しているが、炎症が起こると加水分解酵素などで自身の細胞内に取り込み、好中球を呼び炎症反応を起こします。
肥満細胞:サイトカインを放出し皮膚機能の調節、免疫、炎症に関与します。
基質(細胞外基質)
細胞や線維の間を埋める無定形成分で親水性が強く、水分量の調整、水溶性成分の組織への浸透・拡散に重要な働きを示しています。基質は有機成分、血漿蛋白、電解質、水から構成されます。有機成分にはグリコサミノグリカン、プロテログリカン、フィブロネクチン(細胞接着因子)が含まれます。
グリコサミノグリカンとは酸性ムコ多糖類でヒアルロン酸,コンドロイチン硫酸などからなります。2種類の単糖の繰り返し構造となっています。「海ぶどう」で表現するとわかりやすいです。プロテオグリカン=ヒアルロン酸+コアプロテイン+グリコサミノグリカン
皮膚のターンオーバーについて
ケラチノサイトは新生される新たなケラチノサイトによって皮膚表面に押し上げられ徐々に上層に移動していきます。各層を移動していく中で有棘細胞、顆粒細胞と分化し、最後にはケラチンから成る角質細胞となります。基底細胞は高い分裂能力と多分化能を有する幹細胞から供給されると考えられています。角質細胞は角質層に存在するデスモソーム(細胞間接着因子)であるコルネオデスモソーム(角質層だけの特別ネーム)によって細胞間を結合し
ています。角層上層へ押し上げられていくにしたがってタンパク質分解酵素であるカリクレイン(セリンプロテアーゼ)によってコルネオデスモソームが分解され、最終的に角片として剥がれ落ちます。この表皮の新陳代謝はターンオーバーと呼ばれています。正常であればこのターンオーバーは30日前後です。
引用;北島 康雄.皮疹の因数分解ロジック診断.2018:vol.1:14-82:192
皮膚のターンオーバーが乱れるとどうなる?
加齢、肌荒れなどの影響によってターンオーバーに遅延が生じると、剥がれ落ちるべき角質細胞が残ったままの状態となり、角質層に堆積していきます。これが角質肥厚です。角層が肥厚し部分的に皮膚が硬くなると、皮丘と皮溝の高低差が増し、キメが粗くなる過角化(角質肥厚:ハイパーケラトーシス)と呼ばれる症状が現れます。⇨キメが粗くなります。
また、皮膚の色を決めるメラニンは角化とともに角層へ押し上げられ、最終的には角質細胞の落屑によって皮膚から排泄されますが、ターンオーバーが遅延し表皮内に長期間滞留するとシミやくすみの原因となります。
引用;北島 康雄.皮疹の因数分解ロジック診断.2018:vol.1:14-82:192
さらに紫外線を浴びた肌の角質細胞の表面には、微絨毛様突起と呼ばれる微細な無数の突起が発生しています。この突起がからみ合うことで、角質細胞同士が頑固に結びつき、剥がれにくくなっていることが研究で報告されています。原因として肌が紫外線を浴びると基底細胞内にGLUT-1と呼ばれるタンパク質が発生し、このGLUT-1が表皮細胞に影響を与え、微絨毛様突起が形成されるそうです。
→以上のことから加齢と紫外線によりくすんだ肌やシミは若い頃の皮膚のターンオーバーだけでは改善されません。ピーリングやシミの還元作用がある薬、レーザー治療が重要になってくる訳です。
皮膚常在菌について
皮膚常在菌には、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌(食中毒の原因菌)、アクネ菌、マラセチア菌が含まれます。最も存在するのがアクネ菌、次いで表皮ブドウ球菌と言われています。健常な皮膚ではこれらの皮膚常在菌が大部分を占めていると考えられます。皮膚常在菌は、皮膚内の脂質やアミノ酸を栄養源とし、菌がお互いに調和関係を構築(フローラ形成)することで通常は病原性を示すことなく、外部からの病原菌の侵入を防ぐバリア機能として機能しています。
アクネ菌は嫌気性菌であり、酸素がある環境ではほとんど増殖できないため、毛穴や皮脂腺に存在しています。皮脂分解酵素であるリパーゼを分泌し、皮脂の構成成分であるトリグリセリドを脂肪酸とグリセリンに分解することによって皮膚を弱酸性に保ち、黄色ブドウ球菌など病原性の強い細菌の増殖を抑制する役割を担っています。
コラーゲン線維:真皮に存在する膠原線維です。衝撃から保護すると同時に皮膚にしなやかさや弾力を与えています。
エラスチン線維:真皮に存在する弾性線維です。コラーゲン線維の継ぎ目部分や基底膜へも垂直に伸びています。内部を保護すると同時に皮膚にしなやかさや弾力を与えます。
基質:線維と線維の間を満たすゼリー状の物質で皮膚に張りや弾力をもたらします。基質にはヒアルロン酸やビタミンが存在しています。
グリコサミノグリカンとは
2種類の単糖の繰り返し構造で基底膜や皮下組織に存在する細胞外マトリックス(基質)のプロテオグリカンの構成要素です。