トラネキサム酸(TA)とは
トラネキサム酸は、資生堂の申請によって肌荒れ防止有効成分と美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。t-AMCHAと呼ばれることもありますが、これは化学名である「trans-4-(Aminomethyl)cyclohexanecarboxylic Acid」の略称であり、また「m-トラネキサム酸」の「m」は「melanin(メラニン)」を意味しています。英語表記でtranexamicと表記するのでTAと略します。
①抗線溶抑制作用
トラネキサム酸の内服はプラスミンによる血栓溶解を抑制する効果があります。これがピルを内服していたり、喫煙者や血液凝固異常がある方は内服してはいけない理由となっています。血栓ができやすくなるからです。
アトピー性皮膚炎の重症度が高いほどプラスミン活性が高いため、プラスミンの作用を阻害するトラネキサム酸は有効性があると言えます。
②抗炎症・抗アレルギー作用
プロスタグランジンの生成を抑制するため炎症やアレルギー反応を抑えます(咽頭炎などの炎症抑制目的で処方したりします)
③メラニン生成抑制
②によりメラノサイトが活性化するのを抑制することで間接的にメラニン生成が抑制される
トラネキサム酸は、抗線溶活性を有する薬剤であり、フィブリンの分解による出血を抑制するが、その一方でアラキドン酸の遊離や紫外線に暴露された表皮ケラチノサイトから分泌されるプロスタグランジンの生成を抑制する結果、メラノサイトにおけるメラニン生成を抑制することが報告されています。
肝斑の王道治療
②③の作用機序から紫外線によるシミや肝斑に有効であると報告されています。
引用;前田憲寿.B波紫外線による色素沈着生成メカニズムと色素沈着に対するt-AMCHA 外用の効果.FRAGRANCE JOURNAL(増刊),18:42-49,2003.
特に肝斑病変部においてトラネキサム酸治療後、血管増生やマスト細胞の浸潤を抑制したり1)、表皮基底層におけるVEGFとendothelia-1(ET-1)の発現が抑制されていることも示されています2)。以上からトラネキサム酸がいかに有効であるかが分かります。
引用1);Effect of tranexamic acid on melasma: a clinical trial with histological evaluation
引用2);Efficacy and possible mechanisms of topical tranexamic acid in melasma
トランシーノ®︎の臨床試験
日本では1000mg/日や1500mg/日まど高容量で長期間内服しているケースもあるが、日本で行われた臨床試験ではTA750mg/日を8週間投与で十分な有効性を示しています。8週間以上については臨床試験をしていないので効果や有害事象については不明です1)。トランシーノ®︎服用中止後に肝斑が再発した場合、再投与により改善率が変わらなかったと報告されています。TA服用中止による再発率については7.5%〜75%とさまざまであり正確なデータははっきリしません2)。
引用1);肝斑に対するDH-4243(トラネキサム酸配合経口薬)の多施設共同無作為化比較試験
引用2);肝斑に対するトランシーノの製造販売後臨床試験(第IV相試験)
ただし,トランシーノ®︎は臨床試験が2ヶ月投与であったため厚生労働省が2ヶ月までの連続投与しか認めていません。この商品が2ヶ月までの連続投与としているだけに過ぎないので、トラネキサム酸自体の長期服用について危険というデータはありません。ただ安全というデータもありません。
肝斑に対して750mg程度であれば副作用は少ないと考えられるので禁忌がなければ継続することを推奨します。少なくとも2ヶ月連続投与での安全性は担保されているので、休薬し肝斑が再燃してくれば再開が無難な治療法です。
肝斑以外のシミに対してはどうか
肝斑のみにしてください!
個人的にはあえて内服する必要性はないと思います。理由はトラネキサム酸の作用機序がアラキドン酸の遊離や紫外線に暴露された表皮ケラチノサイトから分泌されるプロスタグランジンの生成を抑制する結果、メラノサイトにおけるメラニン生成を抑制しているからです。つまりTAは炎症性のシミに対して効果を発揮するものだからです。肝斑の病態はまさに炎症によりメラニンが渓流のように出続けているので、それを抑え込む目的で投与するので効果はあります。しかしすでにメラニン沈着してしまっている雀卵斑や老人性色素斑は炎症は関係ないため効果はないと思います。ただし紫外線に当たり過ぎてしまった場合やニキビや湿疹後の炎症性色素沈着によるシミができるのを予防する目的であれば検討の余地はありかと思います。ただしTAには抗線溶抑制作用、つまり血栓ができやすくなるため、不必要に内服するのは良くないのです。
トラネキサム酸の外用について
トラネキサム酸の外用については、分子量が157(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易に浸透します。肝斑では内服治療がエビデンスの高い治療ですが、外用については研究データがありません。しかし理論上は効果は期待できると思います。肝斑以外でも重症度の高いアトピー性皮膚炎ほどプラスミン活性が高いことから、肌荒れなどバリア機能が低下している場合にも、プラスミンの活性を阻害することは、アレルギー性炎症の抑制において重要なアプローチといえます。
下記はいい適応です。
- 肝斑
- 炎症後色素沈着
- アトピー性皮膚炎
- 肌荒れ