ビタミンCは体内では合成できないビタミンであり、抗酸化作用、コラーゲン合成、非ヘム鉄の吸収促進、メラニン生成抑制作用などがありますが、皮膚においてはどうなのでしょうか。
化粧品で期待されるビタミンCの効果
皮膚では抗酸化効果、抗シミ効果、ニキビ対策効果が期待できます。しかしビタミンCは水溶液では熱や光に不安定(紫外線で壊れやすく活性酸素に似た性質を持つようになる)であることから、化粧品においては多くの場合、安定化したビタミンC誘導体の形で用いられています。ビタミンC誘導体はこれまでたくさん研究されており、化学構造を変化させることで安定性に優れるタイプ、浸透性に優れるタイプ、保湿性に優れるタイプなどが開発されています。
一般的に肌から浸透する分子量は500~1000以下です
ビタミンC誘導体一覧(化粧品表示名)
リン酸アスコルビルMg(APM)
医薬部外品表示名;リン酸L-アスコルビルマグネシウム
チロシナーゼ活性阻害作用による美白効果
安定性に優れた水溶性ビタミンC誘導体です。
分子量は438.98(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透します。
武田薬品工業の申請により医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。皮膚においては、細胞膜に存在するホスファターゼによりアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として機能します。チロシナーゼ活性阻害作用による色素沈着抑制効果が報告されています。ビタミンC誘導体なので安定ではあるが、APSよりは安定性が高いが水溶性はAPSよりは低いこと、高価なので、化粧水よりも美容液などに多く使用されています。
アスコルビルリン酸Na(APS)
医薬部外品表示名;リン酸L-アスコルビルナトリウム
メラニン生成抑制作用による美白効果
過酸化脂質抑制による皮膚ダメージ軽減効果
安定性に優れた水溶性ビタミンC誘導体です。
分子量は322.5(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透します。
カネボウの申請により医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。皮膚においては、細胞膜に存在するホスファターゼによりアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として機能します。メラニン生成抑制による色素沈着抑制効果が報告されています。また過酸化脂質の生成抑制効果も報告されています。過酸化脂質とは皮膚に紫外線が当たると発生する活性酸素種によって皮脂が酸化されたものです。この過酸化脂質が表皮だけでなく真皮の線維芽細胞の細胞膜構成脂質も酸化し破壊すると言われています。
他のビタミンC誘導体が持っている付加価値はないため、一般的にビタミンC誘導体を配合している化粧品はコストパフォーマンスを考慮してAPSが多い傾向です。
アスコルビルグルコシド(AA-2G)
医薬部外品表示名;L-アスコルビン酸2-グルコシド
チロシナーゼ阻害作用による美白効果
持続性に優れた水溶性ビタミンC誘導体です。
分子量は328.26(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透します。
資生堂の申請により医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。皮膚においてはαグルコシダーゼによってアスコルビン酸とグルコースに分解され、アスコルビン酸として機能します。皮膚内はαグルコシダーゼの量がかなり少ないので、アスコルビン酸への代謝が遅くVCエチルのような即効性はありません。一方でアスコルビン酸への代謝に時間がかかる分、持続型として効果を発揮します。安定性が高く(酸化を受けにくい)長期保存も可能です。
尋常性痤瘡治療ガイドライン2017において炎症性皮疹や炎症後の紅斑の治療選択肢のひとつとして推奨されています。
3-O-エチルアスコルビン酸(VCエチル)
医薬部外品表示名;3-O-エチルアスコルビン酸
チロシナーゼ、TRP-2阻害作用による美白効果
即効性に優れた水溶性ビタミンC誘導体です。
分子量は204.18(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透します。
日本ハイボックスの申請により医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。皮膚においては他のビタミンC誘導体がビタミンCに変換されて効果を発揮するのに対して、VCエチルは皮膚内での酵素反応を受けずに効果を発揮することから、即効型ビタミンC誘導体とよばれています。安定性が高く長期保存も可能で、長い持続性(72時間)もある為、他のビタミンC誘導体の弱点を克服しています。
ビスグリセリルアスコルビン酸(VC-DG)
医薬部外品表示名;医薬部外品有効成分として承認なし
チロシナーゼ阻害作用による美白効果
コーニファイドエンベロープ形成による保湿効果
保湿性に優れた水溶性ビタミンC誘導体です。
分子量は324.3(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易に浸透します。
ビスグリセリルアスコルビン酸(VC-DG)は2位と3位のヒドロキシ基を保湿成分であるグリセリンで置換することで合成されたノニオン性ビタミンC誘導体です。アスコルビン酸のチロシナーゼ阻害作用による美白効果に加え、皮膚バリア機能と保湿機能の改善効果が認められています。皮膚バリア機能に関しては角質層のコーニファイドエンベロープ(CE)関連因子形成を促進することが明らかとなっています。VC-DGの連用により角層水分量の有意な増加が確認されています。
化学構造的に反応性の高い水酸基がグリセリンで置換されているので高分子ゲルを配合した製剤に粘度を低下させることなく透明な状態で長期間安定に保つことができます。ローション、クリーム、美容液、ジェルなど多くの製剤への配合が可能となっています。
テトラヘキシルデカン酸アスコルビル(VC-IP)
医薬部外品表示名;テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル
チロシナーゼ阻害作用による美白効果
IL-2αとPGE2α阻害による抗炎症効果
炎症抑制に優れた脂溶性ビタミンC誘導体です。
分子量は1129.8(>1000)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易には浸透しません。
日光ケミカルズの申請により医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認された成分です。皮膚においては酵素エステラーぜにより他のビタミンC誘導体同様アスコルビン酸まで変換されて効果を発揮します。構造上はアスコルビン酸のすべて(4つ)の水酸基が脂質パルミチン酸で置換されています。したがって高い脂溶性で、熱に対する高い安定性があります。肌への刺激も少ない成分です。脂溶性のためジェルやクリーム、美容液などに配合されることが多い成分です。乾燥肌には最適です。
VC-IPはニキビの原因であるアクネ菌による自然免疫誘導、炎症惹起をコントロールしていると可能性があります。2015年にコスモステクニカルセンターの研究結果によると、表皮細胞にVC-IPを処理することで、UVB照射により増加するプロスタグランジンE2が顕著に抑制されます。
尋常性痤瘡治療ガイドライン2017において炎症性皮疹や炎症後の紅斑の治療選択肢のひとつとして推奨されています。
引用;横田 真理子.新規高浸透性アスコルビン酸誘導体テトラヘキシルデカン酸アスコルビル(VC-IP)のトータルアンチエイジング素材としての展開.2015;Fragrance Journal(43)(9),57-63.
パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na(APPS)
医薬部外品表示名;医薬部外品有効成分として承認なし
チロシナーゼ阻害作用による美白効果
コラーゲン合成促進作用による抗シワ効果
浸透性に優れた両親媒性ビタミンC誘導体です。
分子量は(1000>)560.46(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透します。
医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認されていない成分です。皮膚においては、細胞膜に存在するホスファターゼやエステラーぜによりアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として機能します。さらに真皮まで到達する皮膚浸透性の高さから高浸透型ビタミンC誘導体に分類されています。また、親水性のアスコルビルリン酸にパルミチン酸を付加することにより、脂溶性の性質も持った両親媒性のビタミンC誘導体となっています。それにより高い安定性(熱や酸化に強い)を備えています。
APPSはAPSを投与した皮膚と比較して高いアスコルビン酸濃度を示していました。比較検証ではⅠ型コラーゲン合成量は濃度依存的に増加し、とくにAPPSでは顕著との報告があります。これはAPSが真皮内のアスコルビン酸含有量をほとんど増加させないのに対して、APPSは真皮アスコルビン酸の含有量増加していることに起因するかもしれません。APPSはこのように高い皮膚浸透性、コラーゲン合成促進作用を示していますが、水溶液として製造されると徐々に加水分解されたり、温度状態により沈殿したり長期安定性を保つことが困難であることも知られています。対処法として、安定性を高める処方にしたり、パウダー状にして工夫しています。イオン導入では浸透性を高めるために粉末状で開封し塗布直前に水溶液を作成しています。脂質パルミチン酸が結合しているため、使用後のつっぱり感や乾燥感が起きにくくなっていると言われています。
引用;加藤 詠子.第ニ世代プロビタミンC.2002.Fragrance Journal(32)(2),55-60.
イソステアリルアスコルビルリン酸2Na(APIS)
医薬部外品表示名;医薬部外品有効成分として承認なし
チロシナーゼ阻害作用による美白効果
浸透性に優れた両親媒性ビタミンC誘導体です。
分子量は(1000>)552.5(>500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は浸透します。
医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認されていない成分です。皮膚においては、細胞膜に存在するホスファターゼによりアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として機能します。さらに真皮まで到達する皮膚浸透性の高さから高浸透型ビタミンC誘導体に分類されています。また、親水性のアスコルビン酸にリン脂質構造と似たイソステアリルリン酸エステルを付加することにより、脂溶性の性質も持った両親媒性のビタミンC誘導体となっています。それにより高い安定性(熱や酸化に強い)を備えています。
カプリリル2-グリセリルアスコルビン酸(GOVC)
医薬部外品表示名;医薬部外品有効成分として承認なし
メラニン生成抑制作用による美白効果
アクネ菌増殖抑制による抗菌効果
コラーゲン合成促進作用による抗シワ効果
過酸化脂質抑制による皮膚ダメージ軽減効果
保湿性に優れた両親媒性ビタミンC誘導体です。
分子量は362(<500)であり通常のスキンケア化粧品に含まれていた場合は容易に浸透します。
医薬部外品美白有効成分として厚生労働省に承認されていない成分です。ビタミンC誘導体の高い安定性に加え、水溶性ビタミンCの弱点である低い皮膚透過性を補った両親媒性ビタミンC誘導体の1つです。GOVCは構造的にビタミンCの反応性の高い部位を親水性かつ保湿性のあるグリセリンに置換、脂溶性かつ抗菌性のあるオクタノールに置換したビタミンC誘導体です。これにより高い皮膚浸透性と高い保湿性のあるビタミンC誘導体となっています。ビタミンC誘導体の中でも保湿型ビタミンC誘導体に分類されています。
殺菌効果によるアクネ菌の増殖抑制、ある臨床試験では美白剤として使用されるアルブチンよりも高いメラニン生成抑制効果、ニキビの赤みや色素沈着に対して効果が示されています。さらに高い浸透性を生かして、ビタミンCの効果であるコラーゲン生成効果や皮脂抑制をよりしやすくなっています。それにより70%以下に毛穴数を減少させたとの報告もあります。
両親媒性ビタミンC誘導体も改良されてきていますが、APPSでもパルミチン酸などの脂質を修飾しているため、紫外線の暴露により遊離脂肪酸が生成し過酸化脂質が発生することは懸念されます。GO-VCは脂質の代わりにオクタノールで両親媒性としているため過酸化脂質の発生も抑えることが可能です。さらに反応性の高い水酸基がグリセリンとオクタノールで置換されているので高分子ゲルを配合した製剤に粘度を低下させることなく透明な状態で長期間安定に保つことができます。ローション、クリーム、美容液、ジェルなど多くの製剤への配合が可能となっています。(GO-VCと違いAPPSやAA-2Gはカルボキシビニルポリマーやポリアクリル酸ナトリウムなどの化粧品に使用されている水溶性高分子ゲルに添加した場合、沈殿します。これに対してGO-VCは沈殿しない性質となっています。脂溶性ビタミンC誘導体であるVC-IPは水に溶けないため、界面活性剤を使用しないと水溶性製剤に配合することはできません。このように溶媒を選ぶ必要性がなく、どの製剤にも混ぜられる点も優れています。)
GO-VCは色々置換されているが完全には非イオン型ではなくマイナスの電荷をもっているためイオン導入も可能です。
まとめ
いずれのビタミンC誘導体もシミや色素沈着に対して有効、安定であることがわかりました。それ以外の付加価値についてまとめると以下の通りになります。